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鮮やかな青
第4章 激動の年
「大変ですが、そこは工夫次第です。どう工夫するかは、内緒ですがね」
酒師は気を良くしたのか、試しに飲んでみてはと猪口を渡す。猪口の底が見える澄んだ酒は、普段皆が飲んでいるような濁った酒とは別物だった。
「とても美しい酒ですね。香りも、私の知るものとは違います」
すぐに口の中に入れるのは勿体無い気がして、ついまじまじと眺めてしまう。ひとしきり澄んだ美しさを堪能すると、ようやく私はそれを口にした。
「これは……初めての味わいです。皆に飲ませたら、さぞ喜ぶでしょう」
父は普段酒を飲むなと説教するが、それは自制しなければ皆、山ほど飲むから言い出した事だ。結局父も私も、量こそ飲まないが嫌いではない。こんな試飲では足りないと、舌が訴えていた。
すると今まで愛想良く饒舌だった酒師が、突然おどおどと遠慮がちに声を掛けてくる。
「……殿。殿は、南蛮酒をご存じですか?」
「南蛮酒?」
「伴天連が異国で作った、葡萄の酒だそうです。甘いのか辛いのか、とても想像が尽きません。手に入れる事も難しいですが、しかし職人として、いつかそれを作ってみたいと思うのです」