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鮮やかな青
第4章 激動の年
一歩先を行きながら、兄は呑気に喋る。皆家族連れと言うが、私はともを置いて出ている。あくまで私は、小早川家に婿入りした立場だ。その小早川を夫婦で空にしては、向こうの家臣が面白く思わないだろう。元春兄上のように向こうへ入って時が経ったなら別だろうが、今の私が勝手は出来なかった。
「そういえば、小早川の宴は滞りなく進んだかな? 乃美殿が、尽力してくれただろう」
「え? あ、は、はい……」
兄は、酒に関する助言を乃美殿の相談だと思っている。私は一瞬戸惑うが、乃美殿のためにもきちんと頷いた。
「食事はもちろん、新たな酒の味に、皆満足したようです。これから小早川家をどう変えていきたいか、皆にも伝わったと思います。兄様も酒師の説得に、助言してくださったと聞きましたが」
私はさも他人事のように話すが、兄は疑う事なく口を開く。本当は私が主導したとは、気付いていないようだった。
「僕はあくまで、話を聞いただけだよ。一番難しいのは、信頼と技術を兼ね備えた優れた職人を見つける事だ。そしてそんな彼らと信頼関係を結べる、乃美殿の誠実さも忘れてはならない」