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鮮やかな青
第4章 激動の年
「恐ろしい、ですか? それを機に儲けられるなら、多少の不安があっても踏み切るべきだと思いますが」
「隆景、お前は利発で度胸もあるから、そう思えるだろう。誰に言われずとも進む道の見えている賢者なら、すぐ首を縦に振るさ。けれど実際は、違っただろう?」
確かに、実際に顔を合わせた酒師は、兄の言う援助が必要な人間だった。兄は不意に立ち止まると振り返り、私の頭を撫でた。
「皆が皆、お前や父様のように賢い訳じゃない。元春のように勇気がある訳でもない。自分に自信を持てなくて、不安で、失敗を恐れるあまり小さくなってしまう……世の中は、そんな人間もいるんだ」
確かに、武家との取引は大きな危険もある。気に入られればいいが、不満を抱かれてしまえば悪評も大きくなる。小さな酒師なら、それで廃業も有り得るだろう。悪徳な将であれば、代金を踏み倒し抗議を握り潰す可能性もある。不安を抱く人間の心も、理解出来るものだった。
「もしや兄様が取引を半分に減らしたのは、そのためですか?」
全部を任されるとなれば、感じる責任は大きい。しかし半分となれば、不安も多少薄れる。競争の意図もあるだろうが、それだけではない。兄が頷けば、私は感嘆の溜め息を漏らしてしまった。