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鮮やかな青
第4章 激動の年
 
「あの、兄様」

 私が声を掛ければ、兄は再び足を止め振り返る。きょとんとした顔に、やはり悪意の類は感じられなかった。

「……ごめんなさい」

 兄とまともに喧嘩をしたのは初めてだから、どう謝れば良いのか私には想像もつかない。捻り出した言葉はあまりに稚拙で、兄はますます目を丸くした。

「ごめん、って……何が?」

 兄が不思議がるのは当然だ、しかし前回喧嘩別れしたのだから、それぐらい察してほしい。この人は今日私と顔を合わせるのに、気まずさを覚えなかったのだろうか。

 単に鈍いだけなのか、器が大きいのか、兄の心はもうひとつ分からない。刺さる視線が恥ずかしくて、私はついやけっぱっちに言葉を吐いた。

「――乃美殿が、ありがとうございましたと伝えてほしいと言っていました。改めて、私からもお礼申し上げます!」

「え? あ、うん。お気遣いなく……?」

 兄は首を傾げ瞼を瞬かせると、私が何か言葉を続けるのかと待ち続ける。だがこれ以上顔を合わせたら、心臓が持ちそうにない。謝った、とは言いにくい謝罪ではあるが、私は兄の先を行こうと足を進めた。
 
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