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第5章 月の影

　
　だが、義隆は最後の最後まで、陶を疑おうとしなかった。目が曇ったのだ、と言えば、間違いはないだろう。疑いがありながら何も行動を起こさないのは、あまりに怠慢である。

　私だけではない、皆、そう思っただろう。主君に刃を向ける陶も陶だが、義隆もまた自業自得。しかしそう割り切れない男が、兄・隆元だった。

「このような真似、許されるはずがありません！」

　大内義隆の死が知らされると、父・元就はすぐさま毛利の重臣達を集め評定を開いた。が、毛利の方針は父の中でとっくに定まっている。陶の謀反も、勢い余って義隆のみならず幼子の後継まで死なせた事も、陶が実質上の統領になった事も、全ては予定調和なのだから。

　それでも評定を開くのは、父が独断で決めたのではなく、皆で話し合った結果だと思わせるためである。安芸の地は、国衆の力が強い。話を聞かずに進めたと知れば、ないがしろにするなと一気に反発を食らうのだ。だが今回は、国衆よりも兄を抑えるための評定とも言えるものだった。

「陶様――いえ、陶は我々との約束を違えたのです！　これでは、義隆様があまりに報われない!!」