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鮮やかな青
第5章 月の影
「しかしだな隆元、死んでしまったものは仕方あるまい。それに陶が擁立した晴英は、一時的とはいえ大内家の養子だった者だ。新たな当主として迎えるには、相応しい立場だろう」
「寝ぼけた事を言わないでください、父様! あれを傀儡として、陶が大内家を操るのは目に見えています!!」
前に私は兄を怒らせたが、今回の怒りはその比ではない。怒りのあまり兄は顔を赤くして、固く握った拳で床を叩きつける。怒鳴り声と相まって、私は思わず肩を震わせた。
「隆元、お前が大内に忠義を抱くのは感心な事だ。しかし陶とて、我らの恩人だぞ? 忘れたか、尼子から攻められ、この吉田郡山城が陥落しかかった事を」
毛利は以前、尼子に攻められ危機に陥った事がある。その時大内家は尼子を恐れ援軍を渋ったが、陶が強く働きかけて援軍を派遣し、無事難を切り抜けたのだ。父の言う通り、毛利は陶家にも恩がある。だがその言葉は、兄を余計に激昂させただけだった。
「――だからこそ、許せないのでしょう!!」
どうして兄がそこまで怒るのか、正直私には理解し難かった。陶は不忠者、大内は怠慢、どちらも呆れられて当然だ。心を動かし怒鳴るような案件には思えなかった。