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鮮やかな青
第5章 月の影
ひとまず、ここまでは父の予定通りだ。兄があそこまで怒るのは想定外だったが、一度頷いた以上、無闇に蒸し返す事はしないだろう。元春兄上は、元より情に流される性質の人間ではない。陶の動向へ、冷静に対応するだろう。
父も収まったと判断したのだろう。皆の顔を見渡すと、咳払いする。
「さて、これから戦う上で一番の問題は、陶の擁立した晴英が、大友家の血筋であるという事だ」
九州一の名家、大友家。晴英はその当主、大友義鎮の弟なのだ。つまり、下手につつけば、大友家をも敵に回す事になる。尼子という敵が存在する中で、大友家とまで敵対するのは厳しいものがあった。
「だが、心配するな。大友義鎮とは、非常に軽薄な男らしい。幸い、我らが挙兵するまでに若干の猶予がある。この元就が、必ず調略してみせよう」
どんな悪巧みをしているのか、父の声はまるで今の状況を楽しんでいるようだった。しかし父の手腕は、疑うまでもない。問題ないと言えば、必ずそれを現実にするだろう。
細かな問題はあれど、大筋は父の望む通りに定まった。後は、機をただ待つだけである。私の頭はひたすら冷静で、余計な葛藤など存在していなかった。