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鮮やかな青
第5章 月の影
長い沈黙が続く。兄は、何を思っているのか。陰から覗くだけでは、何も分からない。
「とにかく、当主としてふさわしき行いをお願いしますぞ」
赤川殿はそう吐き捨て、部屋から出てくる。幸い私が隠れている方とは逆に向かっていったため、鉢合わせになる事態にはならなかった。
続けて兄も、部屋から出てくる。だが兄はそのまま縁側に腰掛けると、秋の高い青空を仰いだ。
出て行くべきか、見なかった振りをして帰るか。どちらが正解なのか、私は迷う。空と同じ鮮やかな青の衣装に身を包まれた兄が、どうしてか遠くに感じたのだ。
私はそのまま後ずさり、戻ろうとする。だが一歩引いたその時に見た兄の姿に、心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
空を映し青に染まる兄の瞳から、一筋の涙が伝う。雨の降り始めのように、音もなく静かに、雫が落ちる。悲しい、という感情を前に、私が抱いたのは今までにない激情だった。兄の悲しみは、美しかった。
「――兄様!」
私は思わず、兄の元に駆けつける。兄は驚き慌てて目を擦るが、涙の跡は隠し切れていなかった。