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鮮やかな青
第5章 月の影
「隆景、どうして……」
衝動に任せ飛び出してしまったが、私は言葉に詰まる。背筋が伸びながらも、すぐ折れそうな兄の背中。あまりに不安で、抱き締めてしまいたかった。が、兄弟とはいえ、いくらなんでもそんな真似をすれば不審がられるのは間違いない。
頭がおかしくなったのだと思われないためには、どうするべきか。飛び出す前に考えればよかったと後悔したが、もはや後の祭りだった。
「あの……」
私が言葉の先を見つけられないでいると、兄は苦笑いして、床を軽く叩く。隣に座れ、という事だろうか。私が従えば、兄は大きな深呼吸をしてから口を開いた。
「――ごめん、情けないところを見られたね」
「いえ……」
「ちょっとね、思い出していたんだ。僕が義隆様の元で、人質だった頃を」
私の頭に、後ろめたい記憶が蘇る。だが兄は、先程の涙が嘘のように穏やかな笑みを浮かべて続けた。
「あの頃は義隆様もまだ気を張られていたし、陶様も頼れる兄のようだった。元春は陶様と義兄弟の誓いを結んだけどね、きっと兄と慕う気持ちは、僕の方が上だと思う」