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第5章 月の影

　
　兄の人質時代、それは年の離れた私には、一生分からない時だ。あの義隆との時間を、まるで宝と言わんばかりに兄は語る。私と兄の間にある、大きな違い。共有できない感情に、私は不愉快さを覚えていた。

「二人だけじゃない。弘中様は僕に稽古を付けてくれたし、江良様は軍略のなんたるかを指導してくださった。人質の身でありながら、皆僕を一人の男として扱ってくれた」

「しかし、もう義隆様は……」

「うん……だからね、考えずにはいられない。どうして、こんな事になってしまったのだろうかって」

　兄が涙を流したのは、父と比べられた悔しさかと思っていた。だが、それは違うようだ。兄は再び空に視線を向けると、私が理解出来ない遠くを見つめた。

「これから、何人をこの手で滅ぼさなきゃならないんだろうね」

　兄が慕っているであろう者達は、皆死んだか、陶に寝返っている。兄が陶と対立すれば、陶に従う大内家臣とも戦う事になるだろう。調略で、こちらに寝返ってくれるのなら構わない。が、都合良く全員が毛利に従うとは考えられない。

　いずれ起こる争いは、かつて仲間と呼んだ者達との殺し合いでもあるのだ。兄が憂う気持ちも、分からなくはなかった。