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鮮やかな青
第5章 月の影
「兄様が望まないなら……私が、斬りましょうか」
私は、そこまでの情を大内家に抱いてはいない。どうせ滅びると思っていたし、義隆が死んだと聞いて、仏罰だと思った。兄が抱く美しい思い出など、もってのほか。私にとって奴の記憶は、精神を蝕む闇そのものだ。
だが兄は、私の頭に手を乗せるとくしゃくしゃに撫でる。相変わらずの子ども扱いをしながら、兄は首を横に振った。
「ありがとう、でも大丈夫だよ。それは……僕の仕事だから」
「しかし、辛そうな顔をしています」
「辛いだけじゃない。同時に、憎しみも沸いているんだ。どうして思い出の輪の中心にいたあの人が、自らそれを壊すような真似をしたのか。幼子を死に追いやるまで、徹底的に滅ぼしたのか……だからね、僕がやらなきゃならないんだよ」
私なら、心を痛める事もなく殺せるのに。どうして兄がその心に複雑な思いを抱えて、自ら傷つかなければならないのか。納得いかなくて、私は頷けなかった。すると兄は、私の身を引き寄せ抱き締めると、背中をぽんと叩いてあやした。
「ありがとう、お前は優しい子だね」