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鮮やかな青
第5章 月の影
不意に襲う、兄の温もり。掛けられる言葉に、心臓が跳ね上がる。全身の血が一気に駆け巡り、頬を火照らせる。兄はそんな私の様子には気付かず、声を掛けた。
「僕は大丈夫だから……隆景は、そのままでいてほしい。僕とは違って、強いままで――」
最後の声は、身を寄せていなければ聞こえないほど小さかった。そう言い残すとすぐに兄は私から手を離し、その場を立ち去る。私は破裂しそうな心臓を抑えるのに手一杯で、とても後を追う事など出来なかった。
離れた今でも、熱と感触は肌に残る。折れそうだと思った細い体は、案外きちんと骨がある。鼻をくすぐる匂いは、同じ血を引く兄弟であるはずなのに、安芸の山とは違う都会の香りがした。
そうだ、これは、大内家で感じた香りだ。そう気付いた瞬間、私の下半身は奮い立っていた。
だが、日も高いうちから、こんなところで醜い行為に走る訳にもいかない。荒ぶる気持ちを抑えようと、私は何度も深呼吸する。
そもそも、兄を慰めたいと思っていたのに、私が慰められてどうするのか。なんの役にも立たない自分に、私は自己嫌悪を抱く。しかし反省しても、なかなか猛りは収まらなかった。