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鮮やかな青
第5章 月の影
「っと、結構な時間になったようだね。そろそろ戻ろうか」
「は、はい……戻られたら、景さまはお仕事ですか?」
「そうだね、色々新しい防御を思い付いたから、対応できるか考えてみないと。そうだ、とも。城について勉強したいなら、私の本をあげるよ。初めて父様からいただいた本でね、私はそれで基礎を学んだんだ」
「え……そんな大事なものを、いただいてよろしいのですか?」
「もう本の中身は、全て覚えてしまったから。次代に繋いでいけば、きっと本も喜ぶよ」
ともは花が開いたような笑みを見せると、私の首に腕を回す。子どもの柔らかい匂いと素直な言葉は、私に癒やしを与えた。
「景さま、わたし今まで生きてきた中で、一番嬉しい贈り物です!」
「一番? 着物や、飾り物よりも?」
「だってその本は、景さまの思い出ですから」
女という生き物が身につけるものの優美にこだわるのは、小さな頃から姉上を見てきた経験上知っている。ともも、それらが嫌いな訳ではないだろう。しかしそれ以上に本が嬉しいと言ってくれるのは、私も嬉しい。武家の子として、どう生きていくのか。未来が、楽しみだった。