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タワーマンションの恋人
第8章 * ハルキ




「痛くない?平気だった?」


優しい声が耳元で聞こえると、何故か鼻がツーンとして目頭が熱くなるから、首を縦にふる。


別に泣くほど何かが辛かった訳でも、痛かったわけでもない。
だけど、彼のその行動は何故かとても大切にされてるような錯覚に陥って、大声で泣いてしまいたくなった。


「なら、よかった。」

そう言って、離れそうになったハルキにわたしはしがみついた。

「どうした?」

「もう少し、だけ…こうしてて?」

そう頼めば、彼の胸の中に納まる。


「ハルキの匂い、安心する。」

「辛い時は、無理しないこと。泣きたいなら我慢しないこと。きっと吐き出すことも出来ないでしょ?この仕事。」


言わなくても伝わる、わかってくれる彼の言葉は優しくて心にしみる。
なんでこの人には、わたしの心が筒抜けなのだろう。


「寂しくないけど、寂しいの。とか言ったらメンヘラって思う?」

「ううん?わかるよ。自分を取り巻く人は居るのに、それなのに、ふとした時、ひとりぼっちな気がするんでしょ?」


本当にその通りで、ハルキもその気持ちを味わったことがあるのかな?なんて思うと何故か安心した。


「だけど、今はちゃんと、ハルキがいる。」

「うん。寂しくない?」

「寂しくない…。」


そう答えた腕の中、彼を見上げれば視線が絡む。


この人にキスがしたいと思った。
仕事なんて関係ない。
わたしの心が、彼を求めた気がしたから。


この日わたしから彼にキスをした。
彼との初めてのキスだった。




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