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タワーマンションの恋人
第9章 * ナナミ




「今、一番不安な時期じゃない?」

そう問いかけてくれたナナミさんのそのおっとりとした口調が心地良くて、思わず頷いてしまった。


この仕事を初めて数ヶ月、季節が一つ変わろうとしていた。


初めの頃はめまぐるしく日々過ぎて行ってたのだけど、最近は、良くも悪くも慣れてきたのか、深く考えなくて良いことを考え込んでしまうことが増えた。


そう言った意味で、ひどく不安だった。
タワーマンションの一室でひとり、わたしは何者なんだろう、なんて。
この居場所は、一生わたしの居場所として存在してくれるのかな。
わたし、この先何十年、どうなってしまうのかな、とか。


意味もなく、ふわりと実体のない不安に襲われることが多くなっていた。




「わかるよ、華ちゃんの気持ち。わたしも初めの頃、そうだったから。」

そう言って目を細めて笑うナナミさん。
その笑顔だけで彼女の愛情深さが伝わるような、慈愛や優しさに満ちた微笑み。


こんな笑顔見せられたら、みんなきっと落ちてしまうだろうなぁ、思わずそんなことを思わずには居られなかった。




「だけど、きっと華ちゃんはその不安すら、魅力に変えちゃう子なんだね。」
そう言って、じっと見つめられる恥ずかしくて思わず視線を逸らしてしまう。


「華ちゃんから見え隠れする不安や自信の無さって、なんだか守って上げたくなるもん。言われない?」


そう尋ねられて、思い浮かべる。
確かに何度か言われたことがある。


「たまに、言われます…。」

そう答えると「やっぱりねぇ!」と嬉しそうに笑った。


クルクル変わる彼女の表情はどんな状態でも美しくて、仕草は可愛らしく、思わず見惚れてしまう。




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