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タワーマンションの恋人
第9章 * ナナミ
「しかもさ、部屋に来る子と関わりが深くなって、うっかり心が通っちゃうとさ?辛くない?」
「……つらいで、す。誰に対しても、誠実じゃない気がして…。この仕事してて誠実なんて言葉もおかしいんですけどね…。自分のどんな言葉にも、感情にも…重みが無くなっていく気がして。」
「ひとりひとりと真剣に関わると、そういうループに陥るんだよね。部屋に居るときだけの関係ってすごく難しいんだよ。日々、向き合う人が変わる中で、しっかり向き合えば向き合うほど、自分の感情が追いつかないんだよね。」
自分一人で考え込んでいたことを、こうして吐き出せただけですごく安心した。
こんな気持ちをわかってくれる人が居たんだ、溺れかけてたわたしに手を差し伸べてくれたナナミさんは救世主であり、まさに天使だった。
「でもね?わたし思うんだ。」
テーブルの上で綺麗な陶器のように重ねられた指に視線を落として彼女は言った。
「大切なことは、ひとつだけ。彼らも自分たちの足で、何度も部屋に来てくれるでしょ?その会いたいって思ってくれた気持ちに向き合う。それがきっと明確な唯一の事実なんだと思うんだ。」
「唯一の、事実…。」
「きっと彼らも色んな想いがあると思うんだ。私たちに対してね?だけど、それでも会いに来てくれた、その時間と気持ちに向き合う。難しいことはきっと考えなくて良いのかなって。あくまで、一対一の関係なんだよ。わたしたちの仕事の背景を感じさせたら、きっと彼らは離れていく。」
「…たくさんの、男の子たちと関わる自分。って客観的に見なくていいんですかね?あくまで1人1人とちゃんと向き合ってるって…思っていいのかな…。」
「良いんだよ、良いの。だって、他の男を感じさせない為に私たちは彼らのルールで守られてる部分もあるし、私たちも完璧に会ってた子の痕跡を消して、次の子と会うことが仕事のうちでしょ?」
「そうですね、たしかに…。」
「会社の人から擬似恋愛って言われるでしょ?それってやっぱり一対一の関係だからだと思う。性欲処理だけなら、ソープ店、1店舗会社が買い取った方がきっと話が速いよ。女の子が他の男に抱かれてるって言うのも割り切りやすいでしょ?」
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