この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
タワーマンションの恋人
第11章 * 虚像
数日前、彼は予定より1時間近く遅れてインターホンを鳴らした。
玄関の鍵を開けると雪崩れ込むように入ってきたシオン。
「いらっしゃ、い」
わたしの前を素通りしてずんずんリビングへ道のりを歩く彼を追う。
いかにも不機嫌そうなオーラが彼を包んでいて、なんとも絡みづらい。
ドサッと音を立ててソファーに座ると投げるように、荷物を床に置き、そのまま倒れ込んだ。
「うぅぅぅ…。」
小さく聞こえるうなり声に恐る恐る近寄り、ソファーの下に座り彼の髪に触れる。
「シオン…?お疲れ様だね?」
「はぁぁ…。」
「大丈夫?」
背中をさすると上半身だけ少し起こして、ぎゅっと抱きついてきたシオン。
普段の彼からはあまり想像できない行動に少し驚く。
「もう、俺無理…。」
「主演だもんね、きついよね。」
彼の背中をぽんぽんと触れると更にぎゅっと抱き締められる。
「勝手に俺のこと指名しておいて、あーでもねぇ
こうでもねぇってうるせぇんだよ、あの監督。演技なんてわかんねぇよ、今まで立ってるだけで褒められてきたっつうの。」
「シオンは、立ってるだけで絵になるもんね。」
「主人公のイメージは俺じゃねぇとか…ネットで結構言われてるしさぁ」
弱々しく言う彼からはいつもの余裕や圧倒的自信は感じられない。
そんなことを気にするんだ…なんてちょっと意外だった。