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タワーマンションの恋人
第11章 * 虚像
「世の中の人、全員が納得する配役なんてきっと存在しないよ?」
「だけど…悔しいし、もう、やりなくない…」
「わたしね、初めて玄関を開けてシオンを見たとき、少女漫画の世界から飛び出してきたのかと思ったの。シオンのこと。」
少しだけ身体を離して彼と視線を合わせる。
「わたしは、シオンしかこの映画の主演は出来ないと思う。みんなの王子様、山辺詩音だもん。シオンにぴったりの役だよ、本当に。」
「俺のせいで、撮影は押すし、怒られてばっかだし…こんな恥ずかしい思い、したことない、もう耐えられない…俺。」
「わかってるよ、シオンがいっぱいプレッシャー抱えて臨んでること、知ってる。でも、大丈夫。シオンなら出来る。」
彼の身体をもう一度ぎゅっと抱き締めた。
弱々しく弱音を言う彼は絶対的王子様ではなく、きっと普通の悩める18歳の少年で。
愛おしくて、可愛くて。
「大丈夫、なんて根拠ねぇじゃん…。」
「あるよ、シオンは出来る子だもん。たくさん悩むかもしれないけど…きっと素敵な映画になるよ。」
「俺、弱いっしょ。意外とメンタルやられやすいの。」
きっと押しつぶされそうになるのだろう。
大人たちが作り上げたシオン自身の虚像に。
だから、弱い自分をさらけ出せる場所を、ありのままで居られる場所を作ってあげたかった。
「うん、なんとなく、わかるよ。…いくらでも弱音吐いていいから。ここでは強がらなくていいよ。」
そう伝えると「うん。」と小さく答えた声が、やっぱり弱々しくて、普段とのギャップに愛おしさを覚えた。