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タワーマンションの恋人
第19章 * star prince
お風呂から出ればハルキはもう電池が切れたかのようにベットで眠っていて、寝息を立てていた。
ハルキの言葉を思い出して、胸が苦しくなる。
ハルキの表情も、仕草も、抱きしめられた感覚も、全てがわたしの心を苦しくさせる。
白い頬に触れ、体温を感じて、ふと考える。
きっと、出会えなかった。
この仕事をしていなければ、ハルキとは。
でも、もし、どこかのタイミングで普通に、空の下で出会っていたとしたら?
地元のどこか、もしかしたら共通の友人がいたかも知れない、もしかしたらどこかですれ違っているかもしれない。
この出会い方じゃなかったら…?
そんなことを考えて居たら、涙がシーツに落ちて慌てて顔を拭う。
最初の頃に聞いた、ハルキの元カノの話をふと思い出す。
この人に愛されてみたいと願ったあの日、この人に愛される人はきっと幸せだ、と思った。
なにか、少し運命がズレていたら…もしかしたら、そんな意味のないことを考えていたら、涙が止まらなくなる。
ずっと封をしていた気持ちの箱が開いて、押し寄せくる。
涙が止まらなくなって、ベットルームを静かに出た。
「わたし、なにしてんだろうっ…」
気が付かないふりをしていた、もうこの気持ちを開くもんか。そう思っていたのに。
わたしはもう、後戻りできない。
きっと普通の幸せなんてものを手にすることができない、そう悟って、久しぶりにこの感情に触れた。
「なにやってんの、わたし」
楽しい、幸せだ、だって彼らは芸能人で。
そんな付加価値の裏に隠してきた気持ちのずっと底にあるもの。
本当に欲しいもの、望んでたものからきっとわたしはどんどん離れた場所にいる。
欲しい、それは目の前にあるのに。
だけど、それを欲することも、手にすることもわたしは許されないんだ。
それが、疑似恋愛の正体だ。
きっと欲しかったものは、いつか他のところに向いてしまう。
わたしは絶対に手にすることは出来ない。
きっと、ここから出ることも…できない。