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タワーマンションの恋人
第22章 * romantic rival
指輪はラックの隅に目立たないように置いておいた。
いつも部屋を綺麗にしている華なら次の人が来るまでに気がつくだろうと思ったから。
ふと鏡に映った自分の顔を見て、ゾッとした。
静かに荒み始めた心がそのまま形相に現れているかのように暗く鋭い表情。
こんなの俺らしくない、そう悲しくなったものの、その表情の理由はわかっていた。
嫉妬。それ以外のなにものでもなかった。
ケイタが良い奴なのはよく知っているから。俺自身も好きな奴だからこそ、湧き上がったその感情を完全に沈めることが出来なかった。
何度も息を吐いて気持ちを落ち着けてからリビングに向かった。
「フミヤー長風呂だったねぇ。アイス食べよっ。待ってたよー。」甘い声で笑顔を向ける彼女を見て心の糸が緩んで目頭が熱くなった。
今まで見ようとしなかった現実を突きつけられた気がして、彼女の笑顔が初めて俺の胸を詰まらせた。
「…アイス、アイスね!食べよっか。」
「うん、一緒に食べようと思って待ってたの。」
そう言って立ち上がり冷蔵庫に向かう彼女をそっと後ろから抱きしめた。
「んー?どうしたの?」
「華、好きだよ。」
俺は華が好きで、すごく好きで。
だけど、叶うようで叶わないこんな関係がいつまでも続くのだろうか。
「わたしもフミヤだいすきよ?」
今まで嬉しかったその言葉すら(他のやつにも言ってんだろ?)そんな嫉妬が俺の俺らしさをかき壊していく。
「…ごめん、やっぱりアイス、もうちょっと我慢してな?」
そう言って軽すぎるくらいの彼女を抱き上げてシーツの海に沈めた。
その日から少しずつ俺は、俺らしさを見失っていった気がする。