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タワーマンションの恋人
第23章 * double bind




彼女はたまに虚ろな目をする。
その顔は、儚げにも見えるし、かなしげにも見えるし、色っぽくも見える。


「華?」


彼女の部屋で台本を読みこんでいて、ふと彼女を振り向けばマグカップを片手にそんな表情でただただTVを見つめていた。



「ん?…あっ、なに?」



慌てて口角をキュッとあげて笑うから、台本を閉じて彼女の隣に向かう。
ソファに腰掛けると彼女がふと顔をあげて、またあの目をして俺を捉える。



「ね、シュウタくん、台本…いいの?」


「うん、もう大丈夫。」


彼女は浅く短い呼吸をしてから、そっと唇を重ねてきた。



「シュウタくん、抱いて?」


「珍しいね、華からそんなこと言うなんて。」


「こんなわたしは、ヤダ?」


「いいえ?そんなことないですよ?でも、なんかあったのかなって、心配はしてる。」


そう伝えて抱き寄せた彼女の耳に唇を寄せる。



身体の力が抜けて、温度が上がっていく彼女を身体に手を滑らせる。


「シュウタくんに抱かれたら、全部忘れられるから。」


喉元から零れ落ちるような頼りない声で彼女は言って、回していた手にそっと力を込めた。



こんなことを彼女が言うときは、忘れたいくらいの出来事があった時だと変換して受け止める。


「いいよ、頭ん中、真っ白にしてあげる。」


重なった唇はいつも熱くて、縋るように絡む舌を離さないように頭から抱えれば苦しそうな声を漏らしながらも離れない彼女の早まる鼓動が体を通して伝わってくる。



こんなとき、怖くなる。
俺に身体の全てを委ねられると、彼女の呼吸すら止めてしまいそうで。




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