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タワーマンションの恋人
第23章 * double bind
「ハルキは、いつだって格好良かったよ。」
「………なら、それは華ちゃんのおかげだよ。」
彼女が笑ったような気がして嬉しかった。
あのタワーマンションから出る事のできない彼女を連れ出して、本来ならいるはずの無い彼女が今、助手席に乗っている。現実なのに現実じゃない様な気がして不思議な気分だった。
そんな話をしながら辿り着いたのは山道を登り、長いトンネルを抜けた先にある高台。
昔は大きな公園を設営する計画もあったらしく、中途半端に整備されていて、俺が学生の頃は車で行ける密かな夜景スポットとして知られていた。
だけど、今は設営途中の公園という立地に変な噂が付いたこととブームが去ったことが重なり、行く人はほとんど居なくなっていた。
「ここって、」
車を降りて外に出ると彼女はピンと来たようだった。
「前話したの覚えてる?」
地元の近い彼女とはこんな穴場スポットの話も良くしていて「いつか一緒に行きたいね」なんて嬉しそうにそして少しだけ悲しそうに言ったのが印象的だった。
夜景スポットに一緒に行きたい。
少しも贅沢じゃない、こんなに小さな希望すら叶えてあげられない自分が情けなくて、すごく嫌で。
案の定、人は自分たち以外誰もいなくて、見下ろす先にはきらびやかな街が広がり、遠くの国道を車のライトが川のように流れていくのが見える。
「…すごい、綺麗…。話には聞いてたけど、こんな綺麗だなんて思わなかった…。」
華ちゃんが細い声で良い、その横顔を見るとそのビー玉みたいに綺麗な目に夜景が反射して更にキラキラしていた。
「ね、華ちゃん。」
「ん?」
「俺、諦めたくないんだよね。」
そう言うと彼女は可愛らしい仕草で首を傾げた。