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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第8章 「雷雨」
先程と変わらぬ寂し気な表情の凛が、手拭いを片手に手招きしている
珍田一はバシャバシャと跳ねる泥水も気にせず扉に向かって駆け寄った
薄暗い土蔵の中は、夏だというのにひんやりとしていた
扉を入ると右側半分には箪笥や木箱が幾つも置かれており、その上に書物や骨董品が幾つも積み上げられていた
そして左側は上がり框のように一段高くなった和室が一間作られており、さらに和室の奥には上へ延びる梯子のような急勾配の階段があって、屋根裏のような空間へ上がることもできるようだ
後から作ったものにしては、案外しっかりした造作で、ちょっとした離れといった雰囲気である
成程…どうやら先程まで凛が外を眺めていた窓は和室の奥…丁度、階段の脇にある窓だったようだ
灯りは小さな裸電球が2つ…
そのささやかな橙の灯が、凛と珍田一の身体を夕刻のように、ほんのり紅く染めていた
「いやぁ…こんなに凄い雨になるなんて思いもよりませんでした…」
凛の差し出した手拭いを受け取ると珍田一は自らの濡れた首筋を拭い始めた
あらかたの水気を拭き取ったところで、凛が何か言おうとしているのに気付いた
珍田一の身体を指さして、身振り手振りで何かを伝えようとしている