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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第8章 「雷雨」
『父は事故死ではありません』
美しい文字でそう書かれていた
珍田一は息を飲んで凛の顔を見つめた
「もしかして…殺されたんですか…?」
凛は先程までと同じように小さく…だが力強く頷いた
珍田一は筆談を交えて、凛から当時の詳しい話を聞いた
凛の父・省吾は、ある男の手によって崖から突き落とされた…という事らしい
犯人が誰だかは暗くて判らなかったが、父と言い争っていた犯人との会話の内容から、もしかすると犯人は凛の本当の父親かもしれないというのだ
珍田一は想像した…
僅か10歳の少女が父親を殺されるところを目撃したのだ…
しかも犯人は自分の本当の父親かもしれない…
それは残酷で耐えがたい出来事だったはずである
「凛さん…凛さんは、犯人が…本当のお父さんが誰なのか知りたいですか…?」
「…」
凛は戸惑っていた…
珍田一の目の前に正座して、太腿の上に乗せた白い手の甲を静かに見つめている
凛の白い手の甲に薄っすらと青い血管が透けている
犯人は知りたいけど、父親を知るのが怖い…そう思っているのかもしれない
暫く沈黙は続いた
勿論、しゃべる事の出来ない凛が相手なのだから、珍田一が口を開かなければ永遠に沈黙は続く