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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第12章 「逃げ水」
とりあえず珍田一と磯毛は陰核寺の珍法に手毬唄について聞いてみることにした
初枝の話では先程気になっていた分かれ道の北側の道が陰核寺の裏に通じる近道だそうだ
二人は初枝にお礼を言って、内藤家を後にした
表は一段と気温が高くなっていた
昨日の土砂降りが嘘のように渇き、道には逃げ水がユラユラと見えている
先程まで庭先や畑に出ていた人の姿も無くなっていた
「うひゃぁ…珍田一さん、こりゃぁ一段と暑くなりましたなぁ…」
「本当ですね…この暑さじゃ、誰も表に出てこないでしょうね…」
「それにしても珍田一さん…犯人は一体、何のために手毬唄なんか真似たんでしょうなぁ…」
「そうですね…僕も今、それを考えていたんです…。もしも警告のような意図で真似たのだとしたら…手毬唄自体を知っている人物も非常に少ないのですから、意味がないのではないかと…」
「それもそうですなぁ…」
「でも、犠牲になった蘭ちゃんも晴海ちゃんも共に村長の息子さんである久米幸太郎さんの花嫁候補と噂されていた…。手毬歌の中の長老というのが村長の事だと考えるなら、とても偶然とは思えません…」
「わかったぁ!犯人は村長の久米源太郎じゃ!息子の花嫁として相応しくない女子を排除するために…」
「うぅ~ん、警部…それだと、手毬唄を真似た事で、犯人は自分だと白状してることになってしまいますよ…。敢えてそんな事をするでしょうか?」
「むむむ…確かにそうですなぁ…。では一体誰が…」
そうしているうちに二人は、先程来た分かれ道まで戻ってきた
先程は西へ向かったのだから、今度はもう一方の陰核寺へ続く北へ向かう道を選んで進んだ
「こちら側の道は雑木林に囲まれていて民家すら見当たらないですねぇ…。もし、犯人がこっちへ来たとすると、晴海ちゃんを何処へ連れて行ったんでしょう…」
何処かに納屋のような場所はないかと、二人は辺りを見回しながら歩みを進めていった
北の道はその左右を雑木林で囲まれている
あれ程五月蠅かった蝉の声すらいつの間にか聞こえなくなっていた
すると、突如二人の視線がある一点で止まった