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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第12章 「逃げ水」
「け、警部…あ、あれは何かしらん…」
「どうやら、民家のようですなぁ…」
北へ延びる道の西側…雑木林の奥に廃屋のような物が見えたのだ
獣道のように、踏み固められて草の生えていない部分が雑木林の奥の廃屋に向かって延びている
「行ってみましょうか…」
「そうですな…」
二人は陰核寺へ向かう道から雑木林の奥に見える廃屋に向かって歩いて行った
湿った黒い地面に落ちて横たわる木の枝を踏むたびに、パキッという小さな音を立てて静寂を乱してしまう
通りからだと廃屋は雑木林からかなり奥まった場所に存在するように見えていたが、実際に歩いて来てみると大した距離ではなかった
おそらく鬱蒼と茂った木々が廃屋までの空間を遮る為、距離感を曖昧なものにしているのであろう…
近付いてみるとそれは古い民家の様であった
納屋と呼ぶには少しばかり大きく、生活の匂いがしていた
しかしこんなに日当たりの悪い場所に、果たして住む者などいるものであろうか…?
磯毛は出入り口と思われる引き戸を叩いた
「もしもし、誰かおるんじゃろうか…ちぃとばかり聞きたい事があるんだがのぅ…?」
すると…程なくガタガタと音を立てて引き戸が横へ開いた