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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第12章 「逃げ水」
「作蔵さん…。因みに、この家には荷車はありますか?」
「ウチにはねぇけど、寺の納屋にはあるぜ。あいにく、俺ぁ…こんな身体だから宝の持ち腐れなんだがな…」
作蔵の話では、来た道を北に進むと行き止まりになっていて、東側が墓場、西側が陰核寺の裏手になっているそうである
「成程…。ところで話は変わりますが、木島敏夫さんが亡くなる前に、敏夫さんが誰かに恨まれていたとか…そういった心当たりはないでしょうか?」
「木島が恨まれる…?アンタ、もしかして木島は誰かに殺されたと思っとるんか…?」
「はい…。」
「アイツは恨まれるような男じゃねぇよ…。だが、俺もアイツは事故で死んだんじゃねぇって思ってる。」
「作蔵さんもですか…?」
「あぁ…、アイツも俺と同じで左脚をやられて不自由だった…もっとも俺みたいに義足だったわけじゃねぇけどな…。だから、アイツは現場の崖には普段から近付こうとしなかったんだ。」
「それは本当ですか?」
「あぁ…あの崖だけじゃねぇ…。裏の沢もそうだし、山にも決して入らねぇ…。危ねぇ場所へアイツは絶対に行ったりしねぇよ。」
「作蔵さんは犯人に心当たりは…」
「ねぇ…。あったらそいつを俺が殺してる…。」
作蔵は目を剥いて二人を睨むように見つめた
その目を見た二人は恐怖で言葉が出なかった
それは戦争で殺し合いをしてきた者の目だったからだ…
二人は作蔵の家を後にして再び陰核寺へ向かった
「作蔵は怪しいですなぁ…。事件当日のアリバイも無いし、目つきも悪い…。」
「う~ん…でも作蔵さんの身体で晴美さんを乗せた荷車で運べるでしょうか?」
「むぅ…それもそうですが、では一体誰が…」
「とりあえず陰核寺の珍法和尚に手毬唄について詳しい話を聞いてみましょうよ」