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第2章 ナミダのワケ
手渡すのに差し出した両手が、そのままなのに気付かないほど、彼女の涙に見入ってしまった。

そのぐらい、綺麗な涙だった。

「ううっ、...ごめんね。ちょっと、今まで、泣いてて」

「あ、いや...」

泣いてんのは見てわかるし。

ハンカチの向こうでぎゅーっと目をつぶって、必死で止めようとしているのが分かる。

ずびっずっ。

...どうやら鼻水も出てるらしい。

鼻水すすりながら、紙袋を持ち直していた。
ずっしりくる重さに、少し驚いているようだ。

「あ、...えっと、洗濯セッケン、です」

ようやく自分が差し出したままの手に気づいて、不自然に片手で頭をかく。

じーちゃんが洗濯セッケンを用意してくれたから、そんなもんかと思ってたけど。
大学で聞いたら、イマドキはご近所挨拶する事自体が珍しくなってきていて。
したとしても、ゴミ袋とか、ラップとかもっと手頃な値段の物が多いらしい。

「...学生さん?」

は?なんで知って?

と思ったら、大学の手続き時に配られた紙袋だった。
大学名がデカデカとプリントしてある。
 
コンビニの袋から出すのわけにもと、手近な紙袋ーと探したら、そのぐらいしかなかったのだ。

「はい。編入なんで、恐らく短い間ですけど」

そーいや、この部屋を決めた時に不動産屋のでぶっちょなおっちゃんが、言ってたっけ。
少し遠いこの地域にK大の学生が住むのは珍しいって。

彼女も恐らく、そういう意味で言ったんだな。
編入とか、何言ってんだか。

なんだか調子が狂う。

「そう」

明らかに興味なさそうに呟いた。
それから一息ついて、またいつの間にか目に涙を浮かべたまま、ふっと微笑んだ。

「ありがとう。洗剤ちょうど欲しかったの」

「...いえ」

「じゃ」

ドアがパタンと閉まった。



...なんか、すげーーー疲れた。

力が抜けた途端、お腹がぐうっと鳴った。

鍵かけてなかった自分の部屋に戻り、今度は鍵をかけてコンビニに向かう。



さっきの人、なんであんなに泣いてたんだろ。

ぽてぽて歩きながら、その事が頭に浮かぶ。

オンナの涙って、もっと打算的で、オトコに媚びる為の武器的な物だと思ってた。
実際そんなのよく見てきたし、ワザとらしさにうんざりもしていた。

だけど、彼女のはそーいうんじゃない。

本気で悲しんで出た涙だ。
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