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第2章 ナミダのワケ
体が大きくゴツいだけでなく骨太な瑞希は、その風貌からドルチェを作っているとは思えない。
味そのものは勿論、器用で繊細な飾り付けには定評がある。

「あれ。瑞希、まだいいんですか?もうとっくに日付変わってますよ」

既婚者である瑞希は、門限だとかでいつもならこの時間になる前に、しぶしぶ家に帰ってる。
なかなかの恐妻家らしい。
体の大きさと力関係は全く逆らしい。
会ったことはないが。

デカい図体なのに、嫁の尻に敷かれているとは、なんとも情けない。
当の瑞希は、そらでもへらへらと楽しそうではある。

「今日はさ!実家帰ってんだよね〜」

ご機嫌で、コップを傾けて飲み干す。

「ほー。離婚に向けて、とうとう別居?」

「違う!違うって!もうすぐ産まれんの!!」

ワザとらしく茶化す大貴に、おおげさなぐらい慌てる瑞希。

瑞希の奥さんがもうすぐ臨月なのは、スタッフ全員毎日のように聞かされてよく知っている。

予定日はもう少し先になるらしい。
出産に立ち会う予定らしく、もう少し近づいてきたらこうやって飲みに来ることも出来なくなる。

「今日はだから、ナイショでね」

勘のいい彼女のことだ、きっと見破られているだろうな。
そう思ったのは大貴も同じらしく、思わず顔を見合わせる。

コテンパンに叱られて、項垂れて仕事している瑞希が目に浮かぶ。

「それよりさー、そっちで達郎さんに聞いたんだけど。とうとう明日、来るらしいよ〜」

来る来ると言われて、なかなか姿を見せなかった新人が、明日は来るらしい。

話だけでまだ誰も会ったことはないが、なんでもオーナー一族の一人らしく。
引きこもりのニートで、処遇を持て余し、この田舎に半ば無理矢理放り込まれるらしい。
全くの素人だが、人とのコミュニケーションは苦手だとかで、調理場に配属される予定だ。

「なんでウチなんだろーなぁ」

大きく瑞希が息を吐く。
年齢からいって、瑞希が恐らく教育係になりそうだ。

スポーツやキャンプなど、アクティブな趣味を多く持つ瑞希にとって、引きこもりのニートは未知の世界らしい。
それは、大貴や羚汰も同じだ。

「ま、なるようになるでしょ。俺も出来る限り手伝うようにアキラさんに言われてるし」

「大貴〜」 

今度は大貴に抱きつこうとする瑞希を、するりと交わす。
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