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第4章 稜の秘密
引き戸を開けて、稜が驚いて飛び上るまでの一瞬の間。

稜は洗面台の鏡のほうへ向かう小さな丸椅子に座って、足を広げていた。

ワンピースは着ていたものの、体は前かがみになって足の間に手を伸ばしてー。


一瞬だったけど、その姿は羚汰の脳裏にしっかりと記憶された。


「りょ、りょうた??...ビックリした!!驚かさないでよ、心臓止まるかと。え、今何時???今日、すごく早いね」

パニくって、やたら早口で稜がまくしたてる。


「...出して」

真っ赤な顔で慌てふためく稜に向かって、殊更冷静に手を差し出す。

「ふえっ、出す?出す???ってな、何もナイよ??」

しらばっくれるつもりらしいけど。
両手を背中に回しても、鏡を背にしているから隠しきれてない。

「その、背中に隠してるヤツ。わかってるから」



「...やだ」


観念したのか否定するのは諦めたらしい。
それでも真っ赤な顔を背けて、手の中の物をこちらに出そうとはしない。

手を出したまま近付こうとして、丸椅子が足元に転がっているのに気が付く。

さっき稜が驚いて立ち上がった時に、ひっくり返したのだろう。


ひとつため息をついて、それを起こして座る。

首元に手を伸ばして、ネクタイを緩めた。

固まったままの稜を見上げる。


「...言ってくれればよかったのに」

「え?何?何を???」

あくまで、シラを切るつもりなのか。


「別に怒ってナイから」

「え。...そ、そう?」

稜の体に手を伸ばす。

少しビクっとしたものの、稜は逃げはしなかった。

座ったままその体を抱きしめる。


風呂上りのイイ匂い。そして稜のニオイ。

ちょっと今は幾分コワバってるけど、柔らかくて、あったかい。



俺が寂しい想いをさせてんだよな。

ここんとこ残業続きだったし。
先週末は泊まりで出張という名のアキラさんによる連行だったし。


稜を驚かそうと思ってヒッソリと帰ったのに。
誰よりも驚いたのが自分だったって、シャレになんねぇよな。

「...羚汰?」

いや、でも、コレが分かって、良かった...のか?

「別に。俺はそういうの、偏見とかないし」

一緒に使うなら大歓迎だ。

「...そ...う、なんだ」

でも、なんてゆーか。

やっぱ、ショックは、ショックかな。
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