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夢…獏の喰わぬ夢
第9章 色
「ここよ。ここにいる。」
懐かしい、いや、聞き覚えのある声がする。
僕は、声の主を求めて、あちこちに進む。
「私はここにいるわ。あなたのそばに…」
声の主が彼女だとわかるがどこにも見当たらない。
「あなたに触れていて、あなたも私に触れているわ。
わからない?私はここよ。」
僕は必死に人間の姿、あるいは、今の自分に似た姿の彼女を探していたが、彼女も僕も互いに触れていると、彼女は言う。
僕は、もう一掻きする。
指の水掻きが水をとらえて擽ったい。
「あなたも、擽ったい?」
「君は、もしかして水?
水になったの?」
「気付いたのね。そうよ。」
僕は、彼女を抱くように、彼女に包まれて、泳ぐ。
彼女の中にいることの喜びを全身で感じようと、力をこめて、もう一掻きする。
「でも、あなた、もう覚めるわ。さっき、『君は水になったの?』と言った。[なった]ということは、今夢の中にいると気付いたのね。」
僕は、濁流に押されて、うまく泳げなくなる。
彼女にしがみつこうと、手を掻き寄せる。
先程まで水中にいるのは、苦しくなかったのに、急に息苦しくなり、水面を目指す。
息が続かない。
慌てて水から顔を出し、大きく息を吸い込むと同時に、目が醒めた。