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夢…獏の喰わぬ夢
第9章 色
僕は目覚めても、彼女を強く抱き締めていた。
手を緩めて、優しく抱き締める。
彼女の顔を覗くと、瞼の中で瞳が動いている。彼女も夢から目覚めるのだろうか。
彼女の髪や頬を優しく撫でる。
彼女が僕にしがみつく、僕は、そっと彼女を包んだ。
彼女の瞼が開き、僕を見つけると、僕の胸に顔を埋めて、一呼吸する。
「おはよう、ここにいたのね。」
彼女は安堵して言う。
「おはよう。君はどこにいたの?」
「あなたと山ではぐれて、捜してた。私はテントに戻ったけど、あなたは来なかった。何度も捜したけど、いなくて…夢だったのね。」
「夢だと知らずにいたの?」
「そうよ、気付いたら醒めてしまうもの。
突然、誰かに抱き締められて、目覚めたら、あなたがいたわ。
あなたは?夢をみたようね。」
彼女は僕の目覚めがあまりよくなかったのを知っているようだ。
「たぶん、初めて夢で人でないものになった。僕は蛙か河童で、君は川の水だった。」