この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 恋の距離
…変わった人…。
綾香は当麻に会うたびにそう思う。
舞台が終わり、次のバイト先までを一緒に歩く道すがらの約小一時間…。
それがここ一か月、二人が共有している時間である。
週に2日ほどだからそれほど多くはない。
(当麻の学業に響くと綾香が頑として譲らなかったからである)
けれど楽屋口のドアを開け、いつも同じ場所に佇む当麻を見つけると、なんとはなしに心が弾むのを、綾香は認めざるを得なかった。
…煉瓦の壁に凭れかかるようにして立っている当麻…。
長身の身体に仕立ての良いシャツ、長い脚を包むのはおそらく英国製のスラックスだろう。
ぴかぴかに磨き立てられた茶色の革靴も舶来物に違いない。
なによりその目鼻立ちの整った品のある美しい顔は、この猥雑な下町浅草ではいやがうえでも目立ってしまうのだ。
行き交う人が珍しげに当麻を眺めるのに、当の本人は全くお構い無しだ。
綾香を見つけると嬉しそうに笑い、手を挙げる。
そんな仕草も様になっていて、綾香はドキドキする。
…が、そんな自分が安っぽい女になったような気がして、わざと無表情に当麻の前に現れてしまうのだ。
「お疲れ様!今日の綾香さんも凄く良かったよ。ホフマンの舟唄が特に良かった!イタリア歌曲は僕も好きなんだ」
率直に感想を述べてくれるのも嬉しい。
「…ありがとう…」
「紅い衣装も良く似合っていたよ。綾香さんは紅が似合うね」
…徹夜で縫ったんだもの…貴方が前にそう言ってくれたから。
「そう?」
嬉しいのに気恥ずかしくて、ついつい無愛想にしてしまう。
「でも綾香さん、忙しすぎない?舞台にバイトにレッスン…身体を壊さないか心配だよ」
さりげなく心配してくれるのも、いかにも紳士らしくて当麻の育ちの良さを表している。
「大丈夫!私、丈夫なのが取り柄だから」
と答えると、歩きながらも綾香の顔をじっと見つめ
「…綾香さんは取り柄だらけだね…美人で、歌が上手くて、賢くて…優しいし…」
…何でそういうことをさらっと言えるんだろう。
口説いている風もなく…。ひたすら私を賛美してくる。
「よく言う。私なんか馬鹿だし、優しくもないし」
フンとそっぽを向くと、全くめげた様子もなく優しく笑いかけてくるのだ。
「綾香さんは馬鹿じゃない。凄く頭の良い人だ。それに…僕とこうやって歩いてくれる優しい人だ…」
…本当に…もう…調子が狂う…。
綾香は俯く。
綾香は当麻に会うたびにそう思う。
舞台が終わり、次のバイト先までを一緒に歩く道すがらの約小一時間…。
それがここ一か月、二人が共有している時間である。
週に2日ほどだからそれほど多くはない。
(当麻の学業に響くと綾香が頑として譲らなかったからである)
けれど楽屋口のドアを開け、いつも同じ場所に佇む当麻を見つけると、なんとはなしに心が弾むのを、綾香は認めざるを得なかった。
…煉瓦の壁に凭れかかるようにして立っている当麻…。
長身の身体に仕立ての良いシャツ、長い脚を包むのはおそらく英国製のスラックスだろう。
ぴかぴかに磨き立てられた茶色の革靴も舶来物に違いない。
なによりその目鼻立ちの整った品のある美しい顔は、この猥雑な下町浅草ではいやがうえでも目立ってしまうのだ。
行き交う人が珍しげに当麻を眺めるのに、当の本人は全くお構い無しだ。
綾香を見つけると嬉しそうに笑い、手を挙げる。
そんな仕草も様になっていて、綾香はドキドキする。
…が、そんな自分が安っぽい女になったような気がして、わざと無表情に当麻の前に現れてしまうのだ。
「お疲れ様!今日の綾香さんも凄く良かったよ。ホフマンの舟唄が特に良かった!イタリア歌曲は僕も好きなんだ」
率直に感想を述べてくれるのも嬉しい。
「…ありがとう…」
「紅い衣装も良く似合っていたよ。綾香さんは紅が似合うね」
…徹夜で縫ったんだもの…貴方が前にそう言ってくれたから。
「そう?」
嬉しいのに気恥ずかしくて、ついつい無愛想にしてしまう。
「でも綾香さん、忙しすぎない?舞台にバイトにレッスン…身体を壊さないか心配だよ」
さりげなく心配してくれるのも、いかにも紳士らしくて当麻の育ちの良さを表している。
「大丈夫!私、丈夫なのが取り柄だから」
と答えると、歩きながらも綾香の顔をじっと見つめ
「…綾香さんは取り柄だらけだね…美人で、歌が上手くて、賢くて…優しいし…」
…何でそういうことをさらっと言えるんだろう。
口説いている風もなく…。ひたすら私を賛美してくる。
「よく言う。私なんか馬鹿だし、優しくもないし」
フンとそっぽを向くと、全くめげた様子もなく優しく笑いかけてくるのだ。
「綾香さんは馬鹿じゃない。凄く頭の良い人だ。それに…僕とこうやって歩いてくれる優しい人だ…」
…本当に…もう…調子が狂う…。
綾香は俯く。