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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 天使のなみだ
室内に入り、当麻は眉をひそめる。
中には父親以外に、初めて見る中年の紳士と、高価な京友禅の振り袖姿の令嬢が着席し、和気藹々と談笑していたのだ。
父親は当麻を見ると上機嫌で手を挙げた。
「来たか。望己」
令嬢は当麻を見上げ、頬を赤らめて目を伏せる。
当麻は父親の隣に座り、小声で尋ねる。
「…お父様、どういうことですか…?」
「驚いただろう?見合いと言ったらお前は来ないだろうと思ってな」
父親は自分の企みが成功した楽しさに目配せし、笑う。
「見合い?…ではこちらは…」
当麻は前に並んで座る中年紳士と令嬢を見る。
人の良さそうな中年紳士は申し訳なさそうに、当麻に語りかける。
「望己君、申し訳ない。色々とこちらが無理を言ってしまって…。いやもう、とにかくうちの娘が君に一目惚れしてしまってね。私が当麻と同期生だと話したら、なんとか君に会わせてくれの一点張りでね」
「…パパったら!恥ずかしいわ、もう!」
令嬢は父親の袖を引き、俯いてもじもじする。
その成り行きを愉快そうに見守っていた当麻の父親が、紹介する。
「私の友人、但馬だ。今は帝都銀行の頭取…お前、出世したな。…こちらはお嬢さんの百合子さん。…実物も美人だろう?」
当麻は但馬親子の手前、父親に気色ばむ訳にも行かず、しかし、とにかくこの場から退出することを考えていた。
…早くなんとか口実を付けて、部屋を出なければ…。
綾香さんが来る前に…。
はらはらする当麻をよそに三人は楽しげに会話を進める。
「しかし、本当に望己君は、秀才な上にこれほどの美男子とは…これは娘が一目惚れしてしまうのも無理はないですな」
但馬はにこにこしながら当麻を誉めそやす。
「…いえ…そんな…」
当麻は困ったように目を伏せる。
そんな当麻を百合子はちらちらと恥ずかしそうに見つめる。
…やはりはっきり言おう。
と、決心し…
「…あの、申し訳ありませんが…」
口を開いた時に、軽やかなノックの音が響く。
「…失礼いたします」
綾香の綺麗な声が聞こえた。
…綾香さんだ!
当麻ははっとした。
中には父親以外に、初めて見る中年の紳士と、高価な京友禅の振り袖姿の令嬢が着席し、和気藹々と談笑していたのだ。
父親は当麻を見ると上機嫌で手を挙げた。
「来たか。望己」
令嬢は当麻を見上げ、頬を赤らめて目を伏せる。
当麻は父親の隣に座り、小声で尋ねる。
「…お父様、どういうことですか…?」
「驚いただろう?見合いと言ったらお前は来ないだろうと思ってな」
父親は自分の企みが成功した楽しさに目配せし、笑う。
「見合い?…ではこちらは…」
当麻は前に並んで座る中年紳士と令嬢を見る。
人の良さそうな中年紳士は申し訳なさそうに、当麻に語りかける。
「望己君、申し訳ない。色々とこちらが無理を言ってしまって…。いやもう、とにかくうちの娘が君に一目惚れしてしまってね。私が当麻と同期生だと話したら、なんとか君に会わせてくれの一点張りでね」
「…パパったら!恥ずかしいわ、もう!」
令嬢は父親の袖を引き、俯いてもじもじする。
その成り行きを愉快そうに見守っていた当麻の父親が、紹介する。
「私の友人、但馬だ。今は帝都銀行の頭取…お前、出世したな。…こちらはお嬢さんの百合子さん。…実物も美人だろう?」
当麻は但馬親子の手前、父親に気色ばむ訳にも行かず、しかし、とにかくこの場から退出することを考えていた。
…早くなんとか口実を付けて、部屋を出なければ…。
綾香さんが来る前に…。
はらはらする当麻をよそに三人は楽しげに会話を進める。
「しかし、本当に望己君は、秀才な上にこれほどの美男子とは…これは娘が一目惚れしてしまうのも無理はないですな」
但馬はにこにこしながら当麻を誉めそやす。
「…いえ…そんな…」
当麻は困ったように目を伏せる。
そんな当麻を百合子はちらちらと恥ずかしそうに見つめる。
…やはりはっきり言おう。
と、決心し…
「…あの、申し訳ありませんが…」
口を開いた時に、軽やかなノックの音が響く。
「…失礼いたします」
綾香の綺麗な声が聞こえた。
…綾香さんだ!
当麻ははっとした。