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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 Boy meets girl
「よう!別嬪さん!あんた、いいおっぱいしてるねえ!」
明らかに酔っ払いと分かる酔客が綾香を揶揄う。
綾香ははっとして、思わずその豊かな胸を押さえる。
途端に客達が笑い出す。
「せっかくイイもん持っているのにィ〜隠さないで〜!」
「綺麗なお姐ちゃん!いいケツして!おっぱいを見るか、ケツを見るか…悩ましいッ!」
調子に乗り始めた客達は囃し立てる一方だ。

…泣いてしまうかな…と心配した矢先…
綾香は、きゅっとその形の良い唇を結び、客席をゆっくりと見渡し、瞼を閉じて深呼吸をひとつした。

綾香の動きをじっと見ていたバンドマスターのピアニストが目で合図をし、静かにピアノを奏で始める。
ギターとトランペットもそれに続く…。

綾香はそっとその美しい瞳を開き、歌い始めた。
美しい声…
この安っぽく、猥雑で、酔客溢れる店内を一瞬にして、綺麗な色に染め上げるような稀有な歌声だ。
美しいだけではなく、艶があり、しかもどこか慈しみのような温度もある声…。

当麻は綾香が歌い始めた歌にはっとした。
…Ms.Dだ…!
数年前に欧州に遊学した時、ベルリンの小さな劇場で聴いたことがある。
あちらではじわじわ売れ始めていたが、日本ではまだ知る人ぞ知る存在のドイツ人歌手…。
…この少女がMs.Dを歌うなんて!
当麻は嬉しさに思わず微笑む。

…甘く切ない恋の唄…。
別れた恋人を思う唄だ…。

…いつか、街灯りの側で会おう…。
昔みたいに…。

…この少女には恋人がいるのだろうか?
当麻の胸がちりりと痛んだ。
…馬鹿な…今、出会ったばかりのこの少女に…
当麻は苦笑する。

ピアニストが最後の旋律を奏で、綾香の声は店内に艶やかに溶けこみ、静かに消えていった。

…ドイツの甘く退廃的な唄は酔客には座りの悪いものだったらしい。
綾香が素晴らしい歌手だと言うことは皆が承知したところだが、酔っ払いには難しすぎたのだ。
「なんだよ、別嬪さん!気取った洋物なんかより、オッペケペー節やってくれよ!」
どっと沸く客席。
…綾香がさすがに途惑ったように瞬きをした。

気がつくと当麻は立ち上がり、盛大に拍手をしながら叫んでいた。
「bravo‼︎bravo‼︎素晴らしいDIVAだ!Ms.Dにも勝るとも劣らない!」
綾香が驚いたように当麻を見つめる。
当麻は綾香と眼が合った嬉しさに尚も拍手を続ける。


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