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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
階下の執務室でワインリストをチェックしながら、月城は昨日の梨央と光のキスを思い出していた。
…進歩的なパリ帰りの光様のお戯れ…
と、思いたい。
…しかし、私をちらりと見遣るあの眼差しはふざけてなどいらっしゃらなかった。

…光様は梨央様がお好きなのだろうか…。
もちろん、従姉妹としてお好きなのは分かる。
私が心配するのは、1人の人として…恋愛感情をお持ちなのかということだ。
梨央様は光様に完全に傾倒しておられる。
…もし、光様が梨央様に恋愛感情をお持ちだとしたら…
光様の自由奔放な行動や考え方にいざなわれてしまわれたら…。
梨央様はまだ14歳だ。
学校にも通われず、あのお屋敷で大切に人々に傅かれ、護られ、純粋培養にお育ちになられている…。
人を疑うことも、悪意を持つことも…人間の影や闇を全くご存知ではない。
…いや、それより私が心配しているのは…

月城はワインリストを机に置き、組んだ両手に額を埋める。
…梨央様が光様に恋してしまわれることだ…!
今は肉親が恋しい梨央様は、光様を本当のお姉様のように慕っておられるだけだが…
もし、光様に恋してしまわれたら…!

昨日の光と梨央の美しくも悩ましいキスの光景が目に浮かぶ。
…梨央のうっとりとした潤んだ光を見つめる眼差し…。
月城は今まで感じたことのない胸の痛みを感じた。
…私は…何て自分勝手な人間なのだ。
梨央様が光様に恋してしまわれるのを懸念し、嫉妬するなど…。
もっと大事な事を心配しなくてはならないのに…!

月城が溜息を吐きながら、椅子から立ち上がった時、遠慮勝ちなノックの音が聞こえた。
「はい」
茅野が少し慌てたように入ってくる。
「月城さん、ちょっと困ったことが起きたの。厨房に来ていただけるかしら?」
「…どうしました?」
月城は茅野に誘われ、執務室を後にした。
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