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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
厨房に入ると、副料理長の花が項垂れながら長テーブルの椅子に座っていた。
傍らには下僕長の大やキッチンメイドが心配した様子で花を見つめている。
「何かありましたか?」
月城が花の前に立つと、花は申し訳なさそうに頭を下げる。
花は二十歳になったばかりの副料理長である。
若いながらもその腕を買われ、春の片腕として屋敷ではきびきびと働く頼もしい存在であった。
それゆえ、今回も別荘の料理長として抜擢されたのだった。
花の代わりに、茅野が説明をする。
「花さん、先ほどオーブンで手を火傷してしまったの」
月城は驚いて花に尋ねる。
「火傷⁈大丈夫ですか?医者には見せましたか?」
月城の真剣な様子に却って花は慌てて首を振る。
「だ、大丈夫です。天板に触れてしまっただけですから…別荘の小林先生に診ていただきましたし」
「手を見せて下さい」
月城は花の手を取り、包帯が巻かれた指に注視する。
不意に手を取られ、花は真っ赤になり下を向いてしまう。
「少し火脹れができた位で大事はないそうなの」
花に代わりに茅野が付け加える。
「…でも二、三日は料理仕事は控えるようにと…」
「当然です」
月城がきっぱりと言う。
花が慌てて口を開く。
「大丈夫です!出来ます!これくらい何てことはありません」
「いけません。無理をして治るのが長引いたり、跡が残ったらどうするのですか?先生の仰るように、花さんは三日間は休んで下さい」
有無を言わさずに指示を出す月城に、花は泣きそうになる。
「でも!私が厨房に立たないと、お嬢様と光様のお食事が…」
大が腕を組みながらつぶやく。
「確かになあ…。キッチンメイドの静ちゃんはまだ新米だし…」
静がおろおろと月城と花を見る。
「私、大丈夫です!やらせてください!」
花が立ち上がろうとするのを月城は優しく肩を押さえる。
花は思わず身を縮める。
「花さん、貴方の責任感は立派ですが、無理はいけません。大丈夫、心配いりません」
月城は花に安心させるように微笑みかけ、一方大に素早く指示を出す。
「大さん、軽井沢倶楽部の庵野さんに連絡を取って下さい。庵野さんは以前、こちらで働いていたチーフシェフなのです。力になって下さるかもしれません」
「分かった!行ってくる」
「で、でも今日のご昼食は?もう時間が…」
月城は花を振り返り、微笑んだ。
「私が作ります。花さんはお手伝いをお願いします」
傍らには下僕長の大やキッチンメイドが心配した様子で花を見つめている。
「何かありましたか?」
月城が花の前に立つと、花は申し訳なさそうに頭を下げる。
花は二十歳になったばかりの副料理長である。
若いながらもその腕を買われ、春の片腕として屋敷ではきびきびと働く頼もしい存在であった。
それゆえ、今回も別荘の料理長として抜擢されたのだった。
花の代わりに、茅野が説明をする。
「花さん、先ほどオーブンで手を火傷してしまったの」
月城は驚いて花に尋ねる。
「火傷⁈大丈夫ですか?医者には見せましたか?」
月城の真剣な様子に却って花は慌てて首を振る。
「だ、大丈夫です。天板に触れてしまっただけですから…別荘の小林先生に診ていただきましたし」
「手を見せて下さい」
月城は花の手を取り、包帯が巻かれた指に注視する。
不意に手を取られ、花は真っ赤になり下を向いてしまう。
「少し火脹れができた位で大事はないそうなの」
花に代わりに茅野が付け加える。
「…でも二、三日は料理仕事は控えるようにと…」
「当然です」
月城がきっぱりと言う。
花が慌てて口を開く。
「大丈夫です!出来ます!これくらい何てことはありません」
「いけません。無理をして治るのが長引いたり、跡が残ったらどうするのですか?先生の仰るように、花さんは三日間は休んで下さい」
有無を言わさずに指示を出す月城に、花は泣きそうになる。
「でも!私が厨房に立たないと、お嬢様と光様のお食事が…」
大が腕を組みながらつぶやく。
「確かになあ…。キッチンメイドの静ちゃんはまだ新米だし…」
静がおろおろと月城と花を見る。
「私、大丈夫です!やらせてください!」
花が立ち上がろうとするのを月城は優しく肩を押さえる。
花は思わず身を縮める。
「花さん、貴方の責任感は立派ですが、無理はいけません。大丈夫、心配いりません」
月城は花に安心させるように微笑みかけ、一方大に素早く指示を出す。
「大さん、軽井沢倶楽部の庵野さんに連絡を取って下さい。庵野さんは以前、こちらで働いていたチーフシェフなのです。力になって下さるかもしれません」
「分かった!行ってくる」
「で、でも今日のご昼食は?もう時間が…」
月城は花を振り返り、微笑んだ。
「私が作ります。花さんはお手伝いをお願いします」