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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
月城は黒い燕尾服の上着を脱ぎ、ベストの上からギャルソンエプロンを着ける。
花がおろおろしながら、月城に声をかける。
「…あ、あの…月城さん…執事さんが料理人の仕事なんて…そんなこと…」
月城は眼鏡を僅かに上げて、にこりと笑う。
「ご心配なく。…私は春さんに鍛えられていますからね。それより、今日の昼食のメニューは?どこまで出来ていますか?」
花は戸惑いながらも料理人らしく要領良く説明する。
「ヴィシソワーズスープと、きのこのマリネ、鰊のソテー、シェパーズパイ…食後のデザートはブラマンジェです。スープとマリネの下ごしらえはほぼ出来ています」
「分かりました。では、花さんは私に作業の指示を下さい。静さんは私を手伝って下さいね」
てきぱきと、しかし優しく声をかける様子に、花も静もうっとりと月城を見つめ、頷く。
分けても花は熱い目で月城に見とれている。
…優しくて頭が良くて、仕事も出来て、映画俳優みたいに背も高くて美しくて…。
月城さんてなんて完璧な人なのかしら…。
ギャルソンエプロンを着けたすらりとした見映えの良い後ろ姿に熱い視線を注ぐ。
…月城さんは恋人はいらっしゃらないみたいだけど…好きな方はいらっしゃるのかな…。
ふと思った時…
厨房の入り口から綺麗な声と共に高貴な花のような薫りが漂う。
「月城!聞いたわ!貴方が昼食を作るのですって?」
月城がはっと振り返る。
「梨央様!」
花と静は慌てて膝を折り、お辞儀をする。
白いドレス姿の梨央が心配そうに入ってきた。
真珠色の美しい肌が輝き、切れ長の黒い瞳は宝石のようだ。唇は紅を塗っていないのに、紅梅のように紅い。
…なんてお美しいお嬢様…。
花は何度見ても溜息を吐かずにはいられない。
月城がじゃがいもの皮を剥きながら、穏やかに、嗜める。
「お嬢様はみだりに厨房に出入りするものではありませんよ」
「いいじゃない。ここは麻布のおうちではないし…花、火傷は大丈夫?」
梨央は優しく花を気遣う。
花は頭を深々と下げる。
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「気にしないで。お大事にね。…花のお陰で月城の料理が食べられるのですもの。正に怪我の功名ね。
…月城、何を作っているの?」
梨央が月城に近づき、背中越しに覗き込む。
可愛らしい仕草に月城は破顔する。
…月城さんはお嬢様には特別な顔を見せるのね…
花の胸がちくりと痛む。
花がおろおろしながら、月城に声をかける。
「…あ、あの…月城さん…執事さんが料理人の仕事なんて…そんなこと…」
月城は眼鏡を僅かに上げて、にこりと笑う。
「ご心配なく。…私は春さんに鍛えられていますからね。それより、今日の昼食のメニューは?どこまで出来ていますか?」
花は戸惑いながらも料理人らしく要領良く説明する。
「ヴィシソワーズスープと、きのこのマリネ、鰊のソテー、シェパーズパイ…食後のデザートはブラマンジェです。スープとマリネの下ごしらえはほぼ出来ています」
「分かりました。では、花さんは私に作業の指示を下さい。静さんは私を手伝って下さいね」
てきぱきと、しかし優しく声をかける様子に、花も静もうっとりと月城を見つめ、頷く。
分けても花は熱い目で月城に見とれている。
…優しくて頭が良くて、仕事も出来て、映画俳優みたいに背も高くて美しくて…。
月城さんてなんて完璧な人なのかしら…。
ギャルソンエプロンを着けたすらりとした見映えの良い後ろ姿に熱い視線を注ぐ。
…月城さんは恋人はいらっしゃらないみたいだけど…好きな方はいらっしゃるのかな…。
ふと思った時…
厨房の入り口から綺麗な声と共に高貴な花のような薫りが漂う。
「月城!聞いたわ!貴方が昼食を作るのですって?」
月城がはっと振り返る。
「梨央様!」
花と静は慌てて膝を折り、お辞儀をする。
白いドレス姿の梨央が心配そうに入ってきた。
真珠色の美しい肌が輝き、切れ長の黒い瞳は宝石のようだ。唇は紅を塗っていないのに、紅梅のように紅い。
…なんてお美しいお嬢様…。
花は何度見ても溜息を吐かずにはいられない。
月城がじゃがいもの皮を剥きながら、穏やかに、嗜める。
「お嬢様はみだりに厨房に出入りするものではありませんよ」
「いいじゃない。ここは麻布のおうちではないし…花、火傷は大丈夫?」
梨央は優しく花を気遣う。
花は頭を深々と下げる。
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「気にしないで。お大事にね。…花のお陰で月城の料理が食べられるのですもの。正に怪我の功名ね。
…月城、何を作っているの?」
梨央が月城に近づき、背中越しに覗き込む。
可愛らしい仕草に月城は破顔する。
…月城さんはお嬢様には特別な顔を見せるのね…
花の胸がちくりと痛む。