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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
「シェパーズパイです」
梨央が瞳を輝かせて、月城の背中から腕を回しぎゅっと抱きつく。
「シェパーズパイ、大好き!嬉しい!」

月城の背中に、梨央の薄いドレス越しの胸の感触が伝わる。
大きくはないが柔らかく慎ましやかに隆起した梨央の乳房が背中に当たる。
月城ははっとして、包丁の手を止めた。
…梨央様…
こんなにお身体が女性らしくご成長されたのか…。

「シェパーズパイ、梨央は一番好き!楽しみだわ」
甘えるように尚も梨央は月城に密着する。
梨央の柔らかな乳房が更に月城の背中に押し付けられる。
甘やかな疼きが月城の身体に走る。
月城は苦しいような切ない顔をする。
梨央は幼い頃から背中から月城に抱きつくことが大好きだった。
14歳になった今も全く躊躇することもせず、まるで恋人に対してするような仕草を無邪気にやってのける。
梨央の白くほっそりとした長い腕が月城の胸の前で交差する。梨央の両手が月城のちょうど心臓辺りに届き、月城は乱れた胸の鼓動を感じとられまいかと焦る。
梨央の乳房の感触、温かな体温、白い薔薇の薫り…
月城は思わず瞼を閉じる。

…と、その時…
「梨央さんはやっぱりbebeちゃんね。ハンサムな執事にまだ甘えてらっしゃるの?」
揶揄うような声が飛ぶ。
はっと振り返ると、厨房入り口の柱にアンニュイに寄りかかりながら、2人を見つめる光の姿があった。
光は月城の梨央に対する邪な感情を全て見透かすように、妖しい眼差しを月城に向け、その形の良い唇に薄い微笑を浮かべる。
「光お姉様!」
「梨央さんは月城が好きなの?」
月城の身体が緊張し、硬くなる。
身じろぎもできない月城の身体にまだ抱きついたままの梨央が無邪気に答える。
「ええ、大好きよ。月城は梨央の騎士だから。いつでも側にいて護ってくれるから。ねっ?月城」
梨央が背中から月城を覗きこむ。
月城は硬い表情を緩め、微笑む。
「もちろんでございます」
光は面白くなさそうに肩をすくめ
「…本当にbebeちゃん。色恋沙汰にはまだまだ程遠いわね、梨央さんには」
と呟く。
「なあに?光お姉様。何か仰って?」
にこにこ尋ねる梨央に
「…何でもないわ。…月城、良かったわね。貴方の大切なお嬢様はまだまだネンネのままよ」
と謎めいた言葉を微笑と共に残し、光はするりと厨房を去っていった。



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