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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
翌日、縣の来訪の為に梨央は茅野に手伝ってもらいながら入念に支度をする。
美しい髪は綺麗にカールされ、結い上げられた髪の根元に温室から届いたばかりの白薔薇を飾る。
後れ毛が纏わる白いうなじは練絹のようにしっとりときめ細やかだ。
後ろからその様子を見ていた光は、長くしなやかな指でそのうなじをすっと撫でる。
「きゃ…!光お姉様!くすぐったいわ」
梨央は首を竦める。
そんな梨央を後ろから抱きしめながら、透き通るように白い頬にキスをする。
「…綺麗だわ、梨央さん…」
鏡越しに恥ずかしそうに頬を染め、光を見つめる梨央。
光沢のある真珠色のふんわりしたシフォンのドレスが良く似合う。
そのドレスは縣がパリで仕立てさせ、梨央に贈ったものだそうだ。
茅野が一礼し、部屋を退出する。

「…ねえ、梨央さん。縣様は梨央さんにとってどのような存在なの?」
梨央は素直に答える。
「…縣様?とても頼りになるお優しいお兄様みたいな存在よ。梨央がお父様と離れて暮らしていても安心して過ごせるのは縣様のお陰なの。何かあるとすぐに来て下さって解決して下さるの」
「…そうね。本当に頼もしい方だわね。…梨央さんは、月城と縣様とどちらがお好きなの?」
梨央は不思議そうな顔をして振り返る。
「…どちらも好きだわ。月城は私の執事だし、縣様は私の後見人。…比べることなんてできないわ」
光はため息を吐きながら梨央の顔の輪郭を撫でる。
「…本当にbebeちゃん。…貴女はまだ初恋もご存知ではないのね。…人に恋い焦がれる切なさや痛みを知るのはいつなのかしら…」
「…光お姉様…?」
光の寂しげな孤独そうな表情を梨央は初めて見た。
それは普段の自信と余裕に満ち溢れた光とは思えない頼りなげな表情であった。
「…光お姉様、どうなさったの?」
光は切なげな眼差しで梨央を見つめ、梨央の顎を引き寄せる。
梨央は素直に光に身を委ねる。
光のすることは梨央にとって全て心地よいからだ。
「…梨央さん…私はね…」

…と、その時密やかなノックの音が響く。
静かに扉が開かれ、月城が現れた。
「…失礼いたします。…梨央様、光様、縣様がお見えになりました」
光はそっと梨央から離れる。
梨央は月城に頷き、光に無邪気に笑いかける。
「さあ、光お姉様。参りましょう」

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