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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
茅野が呼んだ医師が部屋で梨央を診察している間、縣を小客間に案内した。
縣は珍しく、細い外国煙草に火をつけた。
普段愛煙家の縣だが、北白川家に来訪している間は決して煙草を手に取らない。
梨央が喘息と診断されたその日からだ。
その縣が梨央がいないとはいえ、煙草に手を伸ばすのはよほどのことだった。
縣は落ち着かない様子で煙草を何度か吸い込んだ後、コーヒーを淹れている月城に尋ねた。
「梨央さんに最近、変わったご様子は?」
「いえ、近頃は喘息の発作もなく、お元気に過ごされていらっしゃいました」
縣は眉根に皺を寄せる。
「…しかし、あんな風に急に倒れられるなど…。どこかお悪いのではないか?…疑うわけではないが…今日の医師は腕は確かなのか?」
矢継ぎ早に質問を繰り出すのも常に冷静な縣らしからぬところだった。
…梨央様を本当に心配しておられるのだ。
「はい。小林先生は信州医大の講師もしておられる腕利きの医師でいらっしゃいます。軽井沢でも他の貴族の方々のかかりつけ医でもいらっしゃいますし、信頼は置ける医師かと」
「…そうか。…では、我々は診察が終わるのを待つしかないのだな」
縣は月城が恭しく差し出すコーヒーカップをソーサーごと受け取り、自らを落ち着かせるように口に運んだ。
「…梨央さんはここ最近、急にご成長遊ばされたな」
反芻するようにしみじみと語る。
「…はい。…ご幼少の頃はもっとご病弱で、お背もお小さくていらっしゃいましたから心配しておりましたが…」
「…今ではすっかり女性らしくお美しく育たれた…お会いする毎に美しく薫り高く気高く…それはそれは眩しいほどに」
縣の男らしく美しい顔に夢見るような表情が浮かぶ。
「社交界広しとはいえ、梨央さんほど類稀な美しい少女はいらっしゃらない。欧州でもそうだ。…14歳であのような美貌なのだから、お年頃になられたらさぞや評判の姫君になられることだろうな。皆がこぞって噂するに違いない」
縣は自分の言葉にやや焦りの色を見せた。
「…はい」
…その頃…美しい梨央様は、もう縣様のものになっているのだろうか…。
馴染んだ胸の痛みが月城を支配する。
そんな自分を一蹴するように縣に告げる。
「…けれど縣様ほど梨央様にお相応しい方はおられないでしょう」
「…月城…君は…」
驚いた表情の縣が、少し躊躇するように口を開いた時、ドアが密やかにノックされた。
縣は珍しく、細い外国煙草に火をつけた。
普段愛煙家の縣だが、北白川家に来訪している間は決して煙草を手に取らない。
梨央が喘息と診断されたその日からだ。
その縣が梨央がいないとはいえ、煙草に手を伸ばすのはよほどのことだった。
縣は落ち着かない様子で煙草を何度か吸い込んだ後、コーヒーを淹れている月城に尋ねた。
「梨央さんに最近、変わったご様子は?」
「いえ、近頃は喘息の発作もなく、お元気に過ごされていらっしゃいました」
縣は眉根に皺を寄せる。
「…しかし、あんな風に急に倒れられるなど…。どこかお悪いのではないか?…疑うわけではないが…今日の医師は腕は確かなのか?」
矢継ぎ早に質問を繰り出すのも常に冷静な縣らしからぬところだった。
…梨央様を本当に心配しておられるのだ。
「はい。小林先生は信州医大の講師もしておられる腕利きの医師でいらっしゃいます。軽井沢でも他の貴族の方々のかかりつけ医でもいらっしゃいますし、信頼は置ける医師かと」
「…そうか。…では、我々は診察が終わるのを待つしかないのだな」
縣は月城が恭しく差し出すコーヒーカップをソーサーごと受け取り、自らを落ち着かせるように口に運んだ。
「…梨央さんはここ最近、急にご成長遊ばされたな」
反芻するようにしみじみと語る。
「…はい。…ご幼少の頃はもっとご病弱で、お背もお小さくていらっしゃいましたから心配しておりましたが…」
「…今ではすっかり女性らしくお美しく育たれた…お会いする毎に美しく薫り高く気高く…それはそれは眩しいほどに」
縣の男らしく美しい顔に夢見るような表情が浮かぶ。
「社交界広しとはいえ、梨央さんほど類稀な美しい少女はいらっしゃらない。欧州でもそうだ。…14歳であのような美貌なのだから、お年頃になられたらさぞや評判の姫君になられることだろうな。皆がこぞって噂するに違いない」
縣は自分の言葉にやや焦りの色を見せた。
「…はい」
…その頃…美しい梨央様は、もう縣様のものになっているのだろうか…。
馴染んだ胸の痛みが月城を支配する。
そんな自分を一蹴するように縣に告げる。
「…けれど縣様ほど梨央様にお相応しい方はおられないでしょう」
「…月城…君は…」
驚いた表情の縣が、少し躊躇するように口を開いた時、ドアが密やかにノックされた。