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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
「はい」
月城が声をかけると、茅野がお辞儀をしつつ、
「梨央様の診察が終わりました。小林先生です」
と、後ろの白衣の小林医師を中にいざなう。
縣が椅子から立ち上がり、待ちかねたように小林医師に近づく。
急く気持ちを抑えつつ、縣は紳士らしく手を差し出し握手を求めながら挨拶する。
「縣と申します。梨央さんの後見人を務めております」
小林医師は握手しながら好意的な笑みを浮かべる。
「縣男爵様ですね。お噂はかねがね伺っておりますよ」
「恐れ入ります。…それで、梨央さんのご様子は…?」
一刻も早く梨央の診断が知りたい縣は珍しく急かすように尋ねる。
「どこかお悪いのでしょうか?」
「…いえ。お倒れになられたのは立ちくらみだったご様子です。ご診察申し上げましたが、異常はございませんでした」
縣は深く安堵のため息を吐いた。
月城もほっと胸を撫で下ろす。
「良かった!…しかし、随分取り乱しておられました。…今はいかがですか?お会いしても?」
小林医師はやや戸惑うような言い淀むような表情を見せた。
「…いや、それが…。暫く光様以外にはお会いしたくないと仰せられましてね。お世話も茅野さんだけに頼みたいと…男性の下僕も梨央様のお部屋には入れないでくれと…私も早々に引き上げてまいりました」
縣と月城は顔を見合わせ、訝しむ。
梨央は人見知りはするが、縣や月城を拒むようなことは未だかつてなかったからだ。
「…なぜでしょう。…梨央さんに何が起こったのか、私には皆目見当がつきません。先程まで非常に楽しそうにしていらしたのに…」
重い雰囲気がその場を包む。
小林医師は覚悟を決めたように、咳払いをしたのちに口を開いた。

「…月城さんは梨央様がご幼少のみぎりからお世話をしておられますし、縣様はご後見人という近しいお立場ですので、そっと申し上げます。しかし、梨央様にはお伝えしたことはご内密に」
「無論です」
「…梨央様は、大人の女性になられるご準備が一つお出来になったという事でございます。…つまり、初潮をお迎えになられました…」
縣の瞳が見開かれ、頬が紅潮する。
月城ははっと息を呑み、言葉を探す。
「…それは…おめでたいことでございますね…」
ようやく出た言葉に縣は力強く頷く。
そしてやや上擦った声で答える。
「…そう…そうだな。おめでたいことだ。…健やかにご成長遊ばされているということなのだから」
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