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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon

梨央が戸惑ったような表情で縣を見る。
「…あの…でも…」
縣は、強引ではないが有無を言わさぬ口調で続ける。
「東京ではなかなか梨央さんにお会いできないですし、じっくりお話する機会もありません。…この休暇を終えたら私はまたアメリカに商用で行かなくてはならないのです。…その前にぜひ、梨央さんに聞いていただきたいことがあるのです」
「…それは…あの…」
梨央は困ったように月城を振り返る。
そして助けを求めるように、目で訴えた。
月城が素早く控えめに、口を開いた。
「恐れながら申し上げます。梨央様はまだお一人でお泊りをご経験されたことがございません。どうしてもと仰るのでしたら、私の随行をお許し下さい」
「それはならない」
普段の明るく穏やかな縣と思えないほど、厳しい言葉がすぐに返って来た。
縣の端正な顔には笑みは浮かんでいなかった。
梨央ははっと息を飲む。
その様子を見て縣は少し表情を和らげ、梨央に話しかけた。
「…厳しい事を言うようですが、梨央さんはもう14歳です。…他の貴族の子女であれば、寄宿舎に入り、親元を離れ生活をしている方も多いお年頃です。…梨央さんにはこの夏、少し大人になっていただくご経験をしていただきたいのです」
「…大人になる経験…?」
梨央の胸は不安で押しつぶされそうだ。
…今までひたすら優しかった縣がなぜそんなことをいきなり言うのだろう…。
縣は梨央の手を握りしめた。
びくりと震える手を、宥めるかのように優しく撫でる。
「…ご安心下さい。梨央さんを怖がらせたり、傷つけたり、そのようなことは一切いたしません。私を信じて下さい。私は梨央さんの後見人です。梨央さんをお守りするためにそのお役を頂いているのですから」
背後で固唾を飲んでいる月城に聞かせるように縣は真摯に語る。
それまで黙っていた光がおもむろに口を開く。
「…私もご一緒はできないのかしら?」
縣は慇懃に微笑み、優雅に会釈する。
「…大変申し訳ありませんが、今夜だけは梨央さんを私にお譲りいただけませんか。私はただ、梨央さんとゆっくりお話をしたいだけなのですから」
何か皮肉めいた言葉を口にしようとした光を制したのは月城だった。
「わかりました。それでは梨央様を一晩、よろしくお願いいたします」
梨央は思わず、声を上げた。
「月城…!」
すがるような梨央の目と月城の目が合い、一瞬絡みつく。
「…あの…でも…」
縣は、強引ではないが有無を言わさぬ口調で続ける。
「東京ではなかなか梨央さんにお会いできないですし、じっくりお話する機会もありません。…この休暇を終えたら私はまたアメリカに商用で行かなくてはならないのです。…その前にぜひ、梨央さんに聞いていただきたいことがあるのです」
「…それは…あの…」
梨央は困ったように月城を振り返る。
そして助けを求めるように、目で訴えた。
月城が素早く控えめに、口を開いた。
「恐れながら申し上げます。梨央様はまだお一人でお泊りをご経験されたことがございません。どうしてもと仰るのでしたら、私の随行をお許し下さい」
「それはならない」
普段の明るく穏やかな縣と思えないほど、厳しい言葉がすぐに返って来た。
縣の端正な顔には笑みは浮かんでいなかった。
梨央ははっと息を飲む。
その様子を見て縣は少し表情を和らげ、梨央に話しかけた。
「…厳しい事を言うようですが、梨央さんはもう14歳です。…他の貴族の子女であれば、寄宿舎に入り、親元を離れ生活をしている方も多いお年頃です。…梨央さんにはこの夏、少し大人になっていただくご経験をしていただきたいのです」
「…大人になる経験…?」
梨央の胸は不安で押しつぶされそうだ。
…今までひたすら優しかった縣がなぜそんなことをいきなり言うのだろう…。
縣は梨央の手を握りしめた。
びくりと震える手を、宥めるかのように優しく撫でる。
「…ご安心下さい。梨央さんを怖がらせたり、傷つけたり、そのようなことは一切いたしません。私を信じて下さい。私は梨央さんの後見人です。梨央さんをお守りするためにそのお役を頂いているのですから」
背後で固唾を飲んでいる月城に聞かせるように縣は真摯に語る。
それまで黙っていた光がおもむろに口を開く。
「…私もご一緒はできないのかしら?」
縣は慇懃に微笑み、優雅に会釈する。
「…大変申し訳ありませんが、今夜だけは梨央さんを私にお譲りいただけませんか。私はただ、梨央さんとゆっくりお話をしたいだけなのですから」
何か皮肉めいた言葉を口にしようとした光を制したのは月城だった。
「わかりました。それでは梨央様を一晩、よろしくお願いいたします」
梨央は思わず、声を上げた。
「月城…!」
すがるような梨央の目と月城の目が合い、一瞬絡みつく。

