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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
月城は寝台の隣の椅子に座り、梨央を寝かしつける。
梨央は側に人がいてくれる嬉しさと、それが父親がつけてくれた将来の自分だけの執事という晴れがましさに興奮してなかなか寝付けない。
梨央は羽枕に頭を埋めながら、月城の顔を見て矢継ぎ早に質問をする。
「月城はどこから来たの?」
「北陸の小さな漁村です」
「ぎょそん?どんなところ?」
「小さな港があって、小さな船が泊まっています。…冬は寒くて、雪ばかり降って、なかなか晴れません…」
「…ふうん…月城もお船でお魚を取ったの?」
「はい。時々手伝いで船にも乗りました」
「お船、揺れた?」
「揺れました。…一度は海に放り出されたこともありました」
…荒れ狂う冬の日本海…荒々しい波に飲み込まれ、もがいてももがいても海中から抜け出せず、身体はあっという間に冷えていった…。
あの時の恐怖は今も忘れられない。
梨央が怯えた目をして毛布を握りしめる。
「こわい…!どうやって助かったの?」
「気づいた漁師の1人が浮き輪を投げてくれて…それでなんとか」
梨央はほっとした表情をして笑った。
「良かった!月城が死ななくて」
月城の心がじんわりと温かくなる。
「はい。良かったです」
…本当に良かった…。
あの時もし、死んでいたら…
梨央様にお会い出来なかった。
月城は初めて神に感謝した。
「…月城にはお母様はいる?」
梨央がぽつりと尋ねる。
「はい」
「…そう…いいな…」
梨央はベッドサイドに飾られた貴婦人の写真に目を移す。
今より更に幼い梨央を愛しげに抱いた写真だ。
月城は静かに微笑む。
「…梨央様のお母様ですね?…とてもお綺麗な方です」
梨央は寂しそうに笑う。
「そう。とてもお美しいお母様だったの。…でも、もう天国にいらっしゃるの…」
「…そうですか…。でも、お母様はきっと天国で梨央様を見守っていらっしゃいます。
…それに…梨央様にはお優しく頼もしいお父様がいらっしゃる…羨ましいです。…私には父親はいません。…生きているのか、死んでいるのか…それすらも分からない…」
梨央は月城をじっと見つめ、その小さな手で月城の手を握った。
月城ははっとした。
「…月城…かわいそう…かわいそうだから梨央が側にいてあげる…」
「…ありがとうございます…梨央様…」
月城は自分の頑なな心が少しずつ解れてくるのが分かった。
…梨央様の手は魔法の手だ…。
梨央は側に人がいてくれる嬉しさと、それが父親がつけてくれた将来の自分だけの執事という晴れがましさに興奮してなかなか寝付けない。
梨央は羽枕に頭を埋めながら、月城の顔を見て矢継ぎ早に質問をする。
「月城はどこから来たの?」
「北陸の小さな漁村です」
「ぎょそん?どんなところ?」
「小さな港があって、小さな船が泊まっています。…冬は寒くて、雪ばかり降って、なかなか晴れません…」
「…ふうん…月城もお船でお魚を取ったの?」
「はい。時々手伝いで船にも乗りました」
「お船、揺れた?」
「揺れました。…一度は海に放り出されたこともありました」
…荒れ狂う冬の日本海…荒々しい波に飲み込まれ、もがいてももがいても海中から抜け出せず、身体はあっという間に冷えていった…。
あの時の恐怖は今も忘れられない。
梨央が怯えた目をして毛布を握りしめる。
「こわい…!どうやって助かったの?」
「気づいた漁師の1人が浮き輪を投げてくれて…それでなんとか」
梨央はほっとした表情をして笑った。
「良かった!月城が死ななくて」
月城の心がじんわりと温かくなる。
「はい。良かったです」
…本当に良かった…。
あの時もし、死んでいたら…
梨央様にお会い出来なかった。
月城は初めて神に感謝した。
「…月城にはお母様はいる?」
梨央がぽつりと尋ねる。
「はい」
「…そう…いいな…」
梨央はベッドサイドに飾られた貴婦人の写真に目を移す。
今より更に幼い梨央を愛しげに抱いた写真だ。
月城は静かに微笑む。
「…梨央様のお母様ですね?…とてもお綺麗な方です」
梨央は寂しそうに笑う。
「そう。とてもお美しいお母様だったの。…でも、もう天国にいらっしゃるの…」
「…そうですか…。でも、お母様はきっと天国で梨央様を見守っていらっしゃいます。
…それに…梨央様にはお優しく頼もしいお父様がいらっしゃる…羨ましいです。…私には父親はいません。…生きているのか、死んでいるのか…それすらも分からない…」
梨央は月城をじっと見つめ、その小さな手で月城の手を握った。
月城ははっとした。
「…月城…かわいそう…かわいそうだから梨央が側にいてあげる…」
「…ありがとうございます…梨央様…」
月城は自分の頑なな心が少しずつ解れてくるのが分かった。
…梨央様の手は魔法の手だ…。