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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
就寝の支度が終わり、皐月が下がろうとした時、ひそやかなノックの音が響いた。
扉が開かれ、佇んでいたのはガウン姿の縣であった。
藍色のガウンが日本人離れした体型の縣によく似合っている。
「…失礼。梨央さんにお寝みのご挨拶にまいりました」
皐月が膝を折りお辞儀をし、気を利かせて早々に退出した。
純白のレースのナイトドレス姿の梨央を眩しげに見ながら縣は感に耐えたように呟く。
「…お美しい…本当に…」
梨央は恥ずかしそうに俯く。
縣は梨央を怖がらせないようにゆっくり近づいた。
そして肩を優しく抱き寄せ、
「まるでお伽話から抜け出してきたお姫様のようだ。…よくお似合いです。お気に入られましたか?」
「…はい、あの…色々とありがとうございます」
「私がしたくてしていることです。お気になさらないで下さい」
縣は愛しくてたまらないように梨央の頬を優しく撫で、恭しく手を取り、甲にキスした。
「…お寝みなさい、梨央さん。…明日は近くの湖にボートに乗りに行きましょう。シェフも連れて、湖畔でランチをして…もちろん、光さんもお招きしますからご安心下さい」
「…ありがとうございます」
…縣様は本当に優しい方…。
私が心地よいことしかなさらない。
…縣様と結婚したら…
きっと私は幸せになれる…
そう…それはわかるわ…。
縣様はきっと、私を大切に護り、愛して下さる…。
「…どうされましたか?」
縣が優しく尋ねる。
梨央は微笑みながら首を振る。
「…いいえ、何でもありません」
…でも…
「…お寝みなさいませ、縣様。今日はありがとうございました」
梨央は感謝の意を込めて、爪先立ちして縣の頬に軽くキスをした。
縣の眼に歓喜の表情が浮かぶ。
頬が少年のように少し赤らんだ。
「…梨央さん…!」
縣は紳士らしく気持ちを抑え、父親のような抱擁のみを梨央に与えた。
そして、腕の中の梨央を愛しげに見つめ、熱を込めて告げる。
「お寝みなさい。…私の愛する梨央さん…」
…この方を、狂おしく愛する日が来るのだろうか…
胸が切なく、苦しくなるほどの恋を…。

梨央の胸に月城の端正だが慈愛に満ちた顔が浮かんだ。
梨央は慌てて、その思いを打ち消すように明るく縣に笑いかけた。
「…お寝みなさいませ、縣様」

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