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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
「梨央さん!大丈夫ですか?」
梨央の部屋の扉を開け、中に飛び込んだ縣の眼に入って来たのは沈み込むような暗闇であった。
…ランプの灯りが消えている?
梨央さんは暗闇が苦手なのに…。
メイドが油の補充を忘れたのか…。
縣は焦りながら、手にしたランプで室内を照らす。
「…梨央さん、お寝みですか?」
ランプの灯りに照らされた寝台を見た瞬間、縣は息を飲んだ。
白いナイトドレス姿の梨央が、寝台の上で耳を塞ぎながら蹲っていた。
「梨央さん!」
縣は梨央に駆け寄り、梨央を抱きしめた。
梨央は声もなく涙を流していた。
「雷が怖かったのですね。申し訳ありません。私がもっと気をつけていたら…」
華奢な梨央の身体が小刻みに震えている。
「…しろ…」
掠れた蚊の鳴くような声が聞こえた。
「何ですか?何でも仰ってください」
「…つきしろ…月城…たすけて…」
眼を閉じたまま、梨央は譫言のように繰り返す。
縣は、愕然とした。
胸に苦いものが込み上げる。
梨央の身体を尚一層、強く抱きしめた。
「…梨央さん、私がおります。私が梨央さんをお護りします。私を見てください」
しかし梨央は縣の顔を見ることも、声を聞くことも出来ずに、泣きじゃくりながら同じ言葉を繰り返すばかりであった。
「…暗くて怖いの…雷が怖いの…月城…月城…!助けて…!」
落雷のショックで明らかに退行しているのは手に取るようにわかった。
梨央は幼い頃に戻り、自分を護ってくれた月城に助けを求めているのだ。
だから自分を認識せずに、月城を呼び続けるのは致し方ないこと…。
頭では理解出来るが、腕の中の愛する美しい少女が美貌の執事の名をまるで…愛しい恋人を呼ぶかのようにそのか細い声で呼び続けるのが、縣には耐えられなかった。

縣は梨央の顔を自分に向け、強い口調で話しかけた。
「…月城はここにはおりません。貴女の側にいるのは私です」
梨央がごわごわとその美しい瞳を開いた。
怯えた幼女のような眼差しが辺りを彷徨う。
そして引きつった顔に恐怖の表情を浮かべ、泣き叫んだ。
「…いや…いや…!月城…月城がいない…!」
「梨央さん!」
激しく取り乱す梨央を縣は、必死で抱きとめる。
突然、梨央が激しく咳き込み、苦しそうに喉を抑える。
縣ははっと息を飲んだ。
「梨央さん?…梨央さん!」
もしや、喘息の発作が起こったのだろうか?
縣は素早く呼び鈴を鳴らした。



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