この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
数日ほどで、ようやく梨央の体調も回復した。
しかしまだ、起こした発作が大きかったこともあり、主治医には大事を取るように申し渡されていた。
光が梨央の枕元でキーツの詩を朗読し、梨央はそれを静かに聴いているところに、縣が見舞いに訪れた。
白い麻のスーツ姿の縣は大人の男の自信と優雅さを兼ね備え、案内したメイドは思わずうっとりと見惚れてしまったほどだった。
寝台の中で、上半身だけ起こした姿、薄いブルーのネグリジェを着た梨央は抜けるように白い肌をしている。
けぶるような長い睫毛、黒目勝ちな瞳は黒々と濡れていて、今までにない艶を醸し出している。
形の良い唇は桜色だ。
しっとりと露を含んだような唇に、縣は思わず目を奪われた。
…あの唇に月城は…。
縣ははっと我に返り、そんな考えを振り払う。
光が気を利かせて、部屋をそっと退出した。
梨央は縣を見ると申し訳なさ気に頭を下げた。
縣は優しい笑顔を浮かべながら、寝台に近づく。
「大分良くなられたと伺い、お見舞いに参りました。お疲れにならないよう、すぐに失礼いたします」
「いいえ、縣様。本来なら私からお詫びに伺わなくてはならないのに…申し訳ありません」
梨央は恐縮したように肩を縮めた。
縣は寝台の側の椅子に腰掛け、梨央の手を取る。
練絹のように白く滑らかで華奢な手だ。
「何を仰います。私がもっと気をつけていたら、梨央さんを怖い目に合わせることなどなかったのに…」
縣は口惜しそうに唇を噛みしめる。
梨央が慌てて首を振る。
「いいえ!私が弱虫なのがいけないのです。14歳にもなって雷と暗闇が怖いだなんて…情けないですわ…」
しょんぼりとため息を吐く梨央に縣は思わず、笑みを漏らす。
…やはり梨央さんはお可愛らしいな…。
「お気になさることはない。人は誰しも苦手なものはあります」
「…でも…恐怖の余り、意識を失くすなんて…。
あの…縣様、私はどのように取り乱していたのでしょうか?…実は雷が落ちてからの記憶がないのです」
縣は目を見張る。
「…え?」
「気がついたら、別荘に戻っていて驚きました」
「…月城が駆けつけたことも?」
「はい。翌日、光お姉様に伺いました。私が喘息の発作をおこしたので、月城とお姉様が迎えに来て下さったと…」
「…そう…ですか…あの夜の事を覚えていらっしゃらないのですか…」
縣は心の何処かで安堵する自分を感じた。
しかしまだ、起こした発作が大きかったこともあり、主治医には大事を取るように申し渡されていた。
光が梨央の枕元でキーツの詩を朗読し、梨央はそれを静かに聴いているところに、縣が見舞いに訪れた。
白い麻のスーツ姿の縣は大人の男の自信と優雅さを兼ね備え、案内したメイドは思わずうっとりと見惚れてしまったほどだった。
寝台の中で、上半身だけ起こした姿、薄いブルーのネグリジェを着た梨央は抜けるように白い肌をしている。
けぶるような長い睫毛、黒目勝ちな瞳は黒々と濡れていて、今までにない艶を醸し出している。
形の良い唇は桜色だ。
しっとりと露を含んだような唇に、縣は思わず目を奪われた。
…あの唇に月城は…。
縣ははっと我に返り、そんな考えを振り払う。
光が気を利かせて、部屋をそっと退出した。
梨央は縣を見ると申し訳なさ気に頭を下げた。
縣は優しい笑顔を浮かべながら、寝台に近づく。
「大分良くなられたと伺い、お見舞いに参りました。お疲れにならないよう、すぐに失礼いたします」
「いいえ、縣様。本来なら私からお詫びに伺わなくてはならないのに…申し訳ありません」
梨央は恐縮したように肩を縮めた。
縣は寝台の側の椅子に腰掛け、梨央の手を取る。
練絹のように白く滑らかで華奢な手だ。
「何を仰います。私がもっと気をつけていたら、梨央さんを怖い目に合わせることなどなかったのに…」
縣は口惜しそうに唇を噛みしめる。
梨央が慌てて首を振る。
「いいえ!私が弱虫なのがいけないのです。14歳にもなって雷と暗闇が怖いだなんて…情けないですわ…」
しょんぼりとため息を吐く梨央に縣は思わず、笑みを漏らす。
…やはり梨央さんはお可愛らしいな…。
「お気になさることはない。人は誰しも苦手なものはあります」
「…でも…恐怖の余り、意識を失くすなんて…。
あの…縣様、私はどのように取り乱していたのでしょうか?…実は雷が落ちてからの記憶がないのです」
縣は目を見張る。
「…え?」
「気がついたら、別荘に戻っていて驚きました」
「…月城が駆けつけたことも?」
「はい。翌日、光お姉様に伺いました。私が喘息の発作をおこしたので、月城とお姉様が迎えに来て下さったと…」
「…そう…ですか…あの夜の事を覚えていらっしゃらないのですか…」
縣は心の何処かで安堵する自分を感じた。