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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
「…私、縣様に失礼なことをしたり、醜態を晒したりしなかったでしょうか?」
梨央はおずおずと聞く。
…本当に何も覚えておられないのだな…。
縣はにこやかに梨央を安心させるように笑いかけ、手を柔らかく握った。
「ご心配なく。梨央さんは雷にショックを受けられて喘息の発作を起こされただけで、取り乱されてもいません。…お元気になられて本当に良かった…」
「縣様…」
梨央はほっとしたように微笑み返した。
縣は梨央のベッドの端に移動し、腰掛ける。
「梨央さん、私はあさってからまた商用で海外にまいります。今回は長期の出張なので帰国が冬になるでしょう」
梨央の顔に落胆の色が浮かぶのが見て取れた。
「そんなに長く…。寂しくなりますわ」
「本当に?本当に私の不在を惜しんでくださいますか?」
「ええ、もちろんですわ。…私は縣様が東京にいらっしゃるだけで、何だか安心いたしますの。だから縣様が海外に行かれると心許なくて…」
それは真実だった。
梨央は縣を父、伯爵と同じくらいに慕い信頼していた。
縣が側にいると思うだけで、不安や心配が吹き飛ぶような安心感に包まれる。
縣から結婚の話が出た時は想像だにしなかったことで当惑はしたが、決して嫌なわけではない。
気恥ずかしく、受け止めきれなかったので戸惑っただけなのだ。
その気持ちだけは縣に伝えたい梨央であった。
梨央は縣の手を取り、少し恥ずかしそうにその手を自分の頬に押し当てた。
縣が目を見張る。
「…どうかご無事でお帰りになられますように…」
梨央の黒曜石のように煌めく瞳が縣を見上げる。
「…梨央さん…」
「…私はまだ子供なので、縣様が私に求婚して下さった事を受け止め切れないでおります。けれど縣様の事は心よりお慕いしております。…今は…このようなご返事しか差し上げられなくて申し訳ありません。…でも、ご無事のお帰りを誰よりもお祈りしておりますことを、お伝えしたくて…」
「梨央さん!」
縣の中で梨央への愛しさが溢れ出る。
縣は梨央を優しく抱き締める。
「…嬉しいです。梨央さん。そのお返事で、私は充分幸せです。
梨央さんに私を愛して頂けるよう一層、努力をしてまいります」
「…縣様…」
梨央はそっと縣の胸に寄り添った。
縣の胸は父のように暖かく広く良い香りがして、梨央を優しく包み込むのだった。
梨央はおずおずと聞く。
…本当に何も覚えておられないのだな…。
縣はにこやかに梨央を安心させるように笑いかけ、手を柔らかく握った。
「ご心配なく。梨央さんは雷にショックを受けられて喘息の発作を起こされただけで、取り乱されてもいません。…お元気になられて本当に良かった…」
「縣様…」
梨央はほっとしたように微笑み返した。
縣は梨央のベッドの端に移動し、腰掛ける。
「梨央さん、私はあさってからまた商用で海外にまいります。今回は長期の出張なので帰国が冬になるでしょう」
梨央の顔に落胆の色が浮かぶのが見て取れた。
「そんなに長く…。寂しくなりますわ」
「本当に?本当に私の不在を惜しんでくださいますか?」
「ええ、もちろんですわ。…私は縣様が東京にいらっしゃるだけで、何だか安心いたしますの。だから縣様が海外に行かれると心許なくて…」
それは真実だった。
梨央は縣を父、伯爵と同じくらいに慕い信頼していた。
縣が側にいると思うだけで、不安や心配が吹き飛ぶような安心感に包まれる。
縣から結婚の話が出た時は想像だにしなかったことで当惑はしたが、決して嫌なわけではない。
気恥ずかしく、受け止めきれなかったので戸惑っただけなのだ。
その気持ちだけは縣に伝えたい梨央であった。
梨央は縣の手を取り、少し恥ずかしそうにその手を自分の頬に押し当てた。
縣が目を見張る。
「…どうかご無事でお帰りになられますように…」
梨央の黒曜石のように煌めく瞳が縣を見上げる。
「…梨央さん…」
「…私はまだ子供なので、縣様が私に求婚して下さった事を受け止め切れないでおります。けれど縣様の事は心よりお慕いしております。…今は…このようなご返事しか差し上げられなくて申し訳ありません。…でも、ご無事のお帰りを誰よりもお祈りしておりますことを、お伝えしたくて…」
「梨央さん!」
縣の中で梨央への愛しさが溢れ出る。
縣は梨央を優しく抱き締める。
「…嬉しいです。梨央さん。そのお返事で、私は充分幸せです。
梨央さんに私を愛して頂けるよう一層、努力をしてまいります」
「…縣様…」
梨央はそっと縣の胸に寄り添った。
縣の胸は父のように暖かく広く良い香りがして、梨央を優しく包み込むのだった。