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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
その言葉を聞いた月城は、ゆっくりと顔を上げ縣を見つめた。
…羨ましい?
私を?縣様が?
…あり得ない。
地位も名誉も財産も人が羨むほど持ち、その上端正な美男子で、しかも知性も教養も人気も兼ね備え…不足なものなど何もない完璧な青年貴族の縣が…
自分を羨むなど、信じ難いことであった。
「…何を仰います。…私など、取るに足らない人間です。縣様のような完璧なお方の足元にも及びません。…羨ましいなど…」
「いや、私はなれるものなら君になりたい。…梨央さんの全幅の信頼を得られる君にね」
「…縣様…」
「それに君は…爵位こそないが、滅多にいない美貌を持ち、賢く、北白川伯爵の秘蔵っ子として屋敷の運営まで任される人物だ。
私が密かに脅威に感じても可笑しくはないだろう」
縣は育ちの良さゆえの素直さで、月城に心の内を露わにする。
「…梨央さんが、もっと成長されたら…君を好きになるかも知れない…。
…いや…」
縣の理知的な目が月城を捉える。
嫌味などではなく、真摯な眼差しであった。
「…もう好きになられているかも知れないな…」
月城は小さく首を振りながら、穏やかに笑う。
「あり得ません。…梨央様はお年より遥かに無邪気でいらっしゃるのです。そして、普段旦那様がいらっしゃらないお寂しさから、周りの者に甘えがちでいらっしゃるのです。私に対してのそれも親愛の情に他なりません」
縣は月城の言葉を最後まで聞き、口を開いた。
「…そうか。では私は昨夜、梨央さんに結婚の意思があるとお伝えしたのだが、構わないね?」
月城の切れ長の美しい瞳が、初めて眼鏡の奥で見開かれた。
しかし、間髪を入れずに静かに答える。
「勿論です。…縣様、そのようなことは私のような者に、お伺いになるまでもないことです」
「私は君が好きだ。だから君とはフェアな立場でいたいのだ。身分など関係ない。君が梨央さんをどう思っているかが問題だ。
今こそ、君の本心を聞かせてくれ」
…何て綺麗な心の方なのだ。
思い上がることもなさらず、使用人を身分で差別されることもなく、堂々と真っ直ぐご自分の心のままに対峙される方…。
月城はこの時。心の底から縣を敬い…そして妬ましいまでに彼を憧憬した。
…私は縣様のような人間に生まれたかった。
…縣様のように堂々と梨央様を愛する権利を得られる人間に…。
月城は形の良い唇に笑みを浮かべ答えた。
…羨ましい?
私を?縣様が?
…あり得ない。
地位も名誉も財産も人が羨むほど持ち、その上端正な美男子で、しかも知性も教養も人気も兼ね備え…不足なものなど何もない完璧な青年貴族の縣が…
自分を羨むなど、信じ難いことであった。
「…何を仰います。…私など、取るに足らない人間です。縣様のような完璧なお方の足元にも及びません。…羨ましいなど…」
「いや、私はなれるものなら君になりたい。…梨央さんの全幅の信頼を得られる君にね」
「…縣様…」
「それに君は…爵位こそないが、滅多にいない美貌を持ち、賢く、北白川伯爵の秘蔵っ子として屋敷の運営まで任される人物だ。
私が密かに脅威に感じても可笑しくはないだろう」
縣は育ちの良さゆえの素直さで、月城に心の内を露わにする。
「…梨央さんが、もっと成長されたら…君を好きになるかも知れない…。
…いや…」
縣の理知的な目が月城を捉える。
嫌味などではなく、真摯な眼差しであった。
「…もう好きになられているかも知れないな…」
月城は小さく首を振りながら、穏やかに笑う。
「あり得ません。…梨央様はお年より遥かに無邪気でいらっしゃるのです。そして、普段旦那様がいらっしゃらないお寂しさから、周りの者に甘えがちでいらっしゃるのです。私に対してのそれも親愛の情に他なりません」
縣は月城の言葉を最後まで聞き、口を開いた。
「…そうか。では私は昨夜、梨央さんに結婚の意思があるとお伝えしたのだが、構わないね?」
月城の切れ長の美しい瞳が、初めて眼鏡の奥で見開かれた。
しかし、間髪を入れずに静かに答える。
「勿論です。…縣様、そのようなことは私のような者に、お伺いになるまでもないことです」
「私は君が好きだ。だから君とはフェアな立場でいたいのだ。身分など関係ない。君が梨央さんをどう思っているかが問題だ。
今こそ、君の本心を聞かせてくれ」
…何て綺麗な心の方なのだ。
思い上がることもなさらず、使用人を身分で差別されることもなく、堂々と真っ直ぐご自分の心のままに対峙される方…。
月城はこの時。心の底から縣を敬い…そして妬ましいまでに彼を憧憬した。
…私は縣様のような人間に生まれたかった。
…縣様のように堂々と梨央様を愛する権利を得られる人間に…。
月城は形の良い唇に笑みを浮かべ答えた。