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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 Fly me to the Moon
扉を閉めて廊下を歩き出した光はふっと苦笑する。
「…私ったら…親切なんだか意地悪なんだか…自分でもよくわからないわ」
そして大階段を降りようとした時、階下から月城が上がって来るのが見えた。
黒い細身の燕尾服を完璧に着こなした寸分の隙もない美貌の執事…。
整いすぎるくらい整った容貌をさりげなく眼鏡で隠しているが、その端正な顔立ちは否が応でも目を引く。
すらりとした長身の美しいスタイル、品格漂う歩き方…。
悔しいけれど見惚れてしまう自分を、光は感じていた。
階段の上に佇む光の前に立つと、月城は優雅にお辞儀をして静かに微笑んだ。
「…光様、本当に明日、お帰りになるのですか?」
「ええ。両親に顔を見せてからパリに戻るわ。大学入学の準備もしなくてはならないし…」
と説明したのち、月城に近づくとその艶めいた瞳でわざと露悪的に月城に笑いかけた。
「…梨央さんについていた悪い虫がいなくなるからほっとするでしょう?」
月城は首を振り、穏やかに答える。
「いいえ。…とんでもございません。光様が日本をお発ちになることはとても寂しいです」
飴色に輝く大階段の手摺りに置かれた光の造り物のように美しい手に、月城の大きな手が優しく重なる。
光は一瞬どきりとし、そんな自分を恥じるように月城から顔を背け、皮肉めいた言葉を口にする。
「…貴方は意外にたらしなのね。人は見かけによらないものだわ」
月城はわざと強がる光を愛おしそうに見つめながら、囁く。
「…光様との一夏の想い出は生涯忘れません。
おそらく…私が歳を取り、人生を振り返った時に麗しき侯爵令嬢様との美しい想い出は、なによりも鮮やかに蘇る記憶となることでしょう」
「…月城…」
驚いたように月城を見つめる光の手を取り、恭しく敬意を込めて、甲にくちづけする。
「…光様のこれからの人生が幸福と栄光に輝きますように。…心からお祈り申し上げます」
「…月城…私は…」
言いかけるが、やはり思い直して首を振る。
「完璧なお言葉をありがとう。もちろん幸せになるわ。私は名門貴族の娘ですもの。輝かしい人生を生きる為に生まれたのだから」
強がりながら月城の手を離す。
月城の心地よい温もりが光から離れてゆく。
その瞬間、光の心が言いようもない寂しさに包まれた事に誰よりも光が驚く。


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